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  <title type="text">不立悶字　短編小説</title>
  <subtitle type="html">サイト「不立悶字」短編小説用ブログ
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  <updated>2009-03-18T15:53:45+09:00</updated>
  <author><name>折り鶴</name></author>
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    <published>2010-08-22T23:27:42+09:00</published> 
    <updated>2010-08-22T23:27:42+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>その生命が輝くとき　後編</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[苛立ちと焦りが、直江の眉間にわずかな陰を作っている。<br />
　しかし一見すれば、鉄の仮面を張り付けたかのような無表情だ。<br />
　室戸方面の札所周辺を数日かけて回った後、アジトへと戻って来たばかりの直江は、誰もいない会議室で集めてきた資料をテーブルに広げ、睨みつけていた。<br />
　とそこへ霊体の隊士が三人、世間話をしながら入って来る。が、直江が一瞥すると、回れ右でこそこそと部屋を出て行ってしまった。<br />
　直江が三人を見る眼には、憎しみに近い色が宿っていた。<br />
　あの三人が三人とも、望みさえすれば死遍路となって遍路道を歩き、自分だけの仰木高耶を手にすることが出来る。敗北者としてのやりきれなさを、彼にぶつけ、昇華し、浄化することが出来る&hellip;&hellip;。<br />
　直江は、気に入らなかった。<br />
　自分が長年魂を賭して彼と向き合い手にしてきたポジションを、簡単に手にすることの出来る怨霊たちも、それをいとも簡単に与えてしまう高耶も、気に入らない。そして何より、そんな状況を黙って見ていることしか出来ない自分自身が気に入らない。<br />
　いまや日本全国の怨霊が、直江のライバルだ。いや、怨霊だけではないかもしれない。自分だけの理解者、仰木高耶。現代人だってそれを、"死ぬ"だけで簡単に手にすることができる。<br />
　死遍路たちの"今空海信仰"は篤く、今ではそれが現代人の間にまで飛び火しつつある。そのうちに、高耶を得たいが為に自殺する人間まで出るのではあるまいか。直江はそんな危惧すら抱いていた。こんな状況になることを、彼は想定していたのだろうか。<br />
　彼が全ての魂の理解者で在りたいというのなら、それでもいい。彼がどんなに大きく腕を広げようとも、彼に向かって手を広げる人間はひとり、自分だけ。彼自身の理解者は自分しかいないのだから。彼の苦悩を、苛立ちと焦りを、高い志を、深い愛情を、虚像ではない本当の身体、声、眼差し、髪の感触、唾液の味、白い毒液の甘さ&hellip;&hellip;。そういったものをわかっているのは自分だけ。高耶に取って、彼らと自分では全く次元の違う存在&hellip;&hellip;。<br />
　直江の口端が、わずかに歪む。<br />
　そうやって必死に自分を慰めてみても、何にもならならないことはわかっていた。考えれば考えるほど、虚しさは増すばかりだ。<br />
　自分は彼の心を理解はしても、同調はできなかったではないか。赤鯨衆の幹部たちの方がまだ、高耶の心に近い場所にいたではないか。彼のことを誰よりも知っていながら、全力で否定することしか出来なかった臆病者。自らの存在価値が失われることを恐れるあまり、果たすべき責任を棄ててしまった愚か者。魂の、失業者だ。<br />
　あの時の自分の判断が、間違っていたとは思わない。<br />
　ただ、自分は失敗したのだ。あの敗北の瞬間、永遠に失ったのだ。彼に同調し、より強い絆を得る機会と、ソウルバーストという悪魔の顔をした現実を打ち負かす手段を。<br />
　直江は疲れ切った様子で、掌を額にやった。<br />
　直江と言う魂核史上最大の失敗の記憶が、直江を無表情たらしめていた。<br />
（少し休もう）<br />
　頭がぼんやりとしている。先程から思考があまりうまくいっていない。寝なくてはいけないことはわかっているのだ。<br />
　でも、眠るのが怖かった。夢をみるのが怖かった。何を怖いと思うのか、それすら考えるのが怖い。<br />
　今度は恐怖が、直江の無表情の主たる成分となりかけたその時。<br />
<br />
　　ド&hellip;&hellip;ドン&hellip;&hellip;<br />
<br />
　何かの爆発音が聞こえてハッと顔を上げる。<br />
　耳を済ませると、再びその音が鳴った。<br />
（そういえば&hellip;&hellip;）<br />
　どこかで花火大会があるとか言っていた。<br />
（そんな季節か&hellip;&hellip;）<br />
　言われても、あまりピンとは来なかった。身体が、今の季節を夏と認識していないからなのだろう。季節の変化がなくなって初めて、四季というものがどれだけ身体に染み付いていたかがよくわかる。<br />
　肌で感じるちょっとした空気の変化や、自然と視界に入ってくる道端や軒先の草花、日照時間。それらを意識することはなくとも、身体が勝手に捉えていたのだろう。<br />
　案外、浄土とはこういう世界なのかもしれないと思った。暑すぎる夏もなく、寒すぎる冬もない。そもそも霊体が気温を感じることはない。生きている間にまどわされた問題から遠ざかり、己の中のみを見つめる存在であるためならば、季節など必要ないのだろう。たとえ四国に四季が戻ったとしても、霊体のままの魂にとってはさして代わりのない世界にみえるかもしれない。<br />
　しかし生きた人間にしてみれば、やはり四季折々の変化が恋しくもなる。<br />
　四国の現代人たちが催すのは、花火大会だけではなかった。春には各地で"お花見"がこぞって開催された。紙や布造った桜を飾って、楽しむというものだ。それが五月には菖蒲になったし、六月にはあじさいになった。近頃は車で走っていると、道端に大きなひまわりをよくみかける。もちろん、よくみれば造花なのだが。<br />
　そう言った彼らの努力を眼にする度、直江は舌を巻く思いがした。変化のない&hellip;&hellip;いや、生き物は徐々に死に行き、死者ばかりになりつつあるこの島を、彼らは決して見捨てないつもりでいるらしい。不思議なもので、そういった努力をしている人々の姿は、以前よりも生き生きとしてみえる。乗り越えるべきものを乗り越えようとする気力から来るものなのだろうか。<br />
　人間は強い。強く、したたかだ。<br />
　獣であれば本能でしか動かない。目の前に危険＝死があれば、回避しようとしか思わない。<br />
　けれど人間には本能を超える能力がある。勇気、愛、願い、夢、希望。本能がどれだけ拒否しても、そこへ立ち向かっていける強さを、人は持っている。もう駄目かもしれないと思っても、人は必ず立ち上がる。現に彼らは、理不尽なものに精一杯立ち向かっている。<br />
　その力は一体どこからくるのだろう。<br />
　高耶もそうだ。高耶のあの美しいまでの強さは、人であるから持ち得るものだ。途方もない罪をかかえてまで、途方もない偉業を成し遂げようという発想は、人間にしか持ち得ない。もちろん高耶の場合、人間で在りたいという想いが強さを引きだしてはいるのだろうが&hellip;&hellip;。<br />
<br />
　外に出てみると、遠い夜空に大輪の花が咲いていた。<br />
　灰色の空を背景に、見事に花弁を散らしている。<br />
　美しかった。<br />
　そして自分にまだ、花火を美しいと思える心が残っていることに驚いた。自分にも彼らと同じ、したたかさが宿っているのかもしれないとも思えた。<br />
　今の自分は苛立ちと恐怖で盲目となっている。<br />
　これでは見えるべきものも見落としてしまうかもしれない。<br />
　自分も人であるならば、彼らのような強さを持たねばならない。<br />
　もう無理だと思う自体をも、乗り越えて行ける強さを。<br />
（あのひとは、どう思うだろう）<br />
　この花火を見て、何を思うのだろう。<br />
　彼がいま必死に立ち向かっているものの名は、責任、だ。あんなにたくさんの魂を抱え込み、自身の体調不安を抱え込み、信長という宿敵との戦いを抱え込み&hellip;&hellip;。<br />
　押し潰されている高耶の心には、どう映るのだろう。<br />
　直江の脳裏に、遠い昔に見た笑顔が浮かぶ。確か仙台での事件の後、花火をしたことがあった。友人とはしゃぐ顔、妹を見守る顔、色とりどりの光が照らす表情を、自分は飽きずに眺めたものだった。<br />
　ふと思いついて、直江はある場所へと電話を掛けることにした。<br />
「<span class="line">───</span>そう、花火だ。あのひとに届けられるか？<span class="line">───</span>いや、俺の名前は出さなくていい<span class="line">───</span>ああ、悪いな<span class="line">───</span>」<br />
　電話を切って、直江は思う。<br />
　高耶はこの島を、死人だけの島にしたかったわけじゃない。自分はその意向をくんで動いてやらねばいけない。<br />
　高耶が人で在りたいと願うように、自分にも在りたいと願う姿がひとつ、ある。<br />
　それを想えばきっと、自分にもしたたかさが宿るのではないだろうか。<br />
　直江は拳を握りしめた。<br />
　行動あるのみ、だ。<br />
　まずは、この島が生命の輝ける場所で在れるように。<br />
<br />
<br />
<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/55/"><span class="ver">前編</span></a>　≪≪]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/55</id>
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    <published>2010-08-22T23:23:08+09:00</published> 
    <updated>2010-08-22T23:23:08+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>その生命が輝くとき　前編</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　夏。生命が輝きを増す季節。<br />
　肌を焼く熱い日差しに蝉の合唱。<br />
　したたる汗。それを拭うために手を持ち上げるのさえ億劫に思う。<br />
　道の端を、夏休み中の子供達がプールバックを片手に並んで歩く。<br />
　家に帰ればよく冷えた素麺がテーブルの上に並んでいて、食後のデザートには真っ赤に熟れたすいかが用意されている。<br />
　週末には近所の神社の境内で、町内会主催の納涼盆踊り大会が開かれる。<br />
　参道の両脇には夜店が並び、行きかう人々は皆、祭りの締めに行われる恒例のイベント、ナイアガラ花火を楽しみにしている。<br />
　毎年毎年、同じことの繰り返し。<br />
　小さな山車の周りに集まっている浴衣を着込んだ子供達が大きな神輿を担げる大人になっても、呼び込み文句を威勢よく張り上げる焼きそば屋の男性が声の嗄れた老人になっても、変わらずに同じことが繰り返される。<br />
　<span class="line">───</span>はずだった。<br />
<br />
　当たり前のような夏の光景を、獣の咆哮が奪い去っていった。<br />
<br />
<br />
<br />
「これ、よかったら」<br />
　剣山頂上のロッジへ食糧や消耗品を運び入れていた隊士が、思い出したように高耶の方へ紙袋を差し出した。<br />
「この間、浦戸の方で花火大会があったんですよ」<br />
　高耶が袋を覗いてみると、中にはファミリー向けの小さな花火のセットが入っていた。<br />
「まあ、以前よりは規模が小さかったらしいですけど」<br />
「………そうか」<br />
　四国は現在大不況の真っただ中だから、開催資金が集まらなかったのだろう。それでも、たくさんの人出があったようだと隊士は話す。<br />
「雰囲気だけでも味わってくださいよ、隊長」<br />
　彼は、現在の赤鯨衆の中で高耶を隊長と呼ぶ数少ない人間のうちのひとりだ。<br />
「ありがとう」<br />
　去っていく車を見送りながら、高耶は袋の中から花火を取りだす。<br />
（夏……か）<br />
　上着を何枚か羽織って、それでもまだ寒いくらいなのに。<br />
　現在の季節を、言葉で確認しあわなければわからないなんて。こんな事態、誰が想像していただろうか。<br />
　花火の袋の中には、花火大会のチラシまで一緒に入っていた。<br />
　そこには、"大事故"からの復興がうたわれている。<br />
　余裕のない生活の中で、それでも人々は前のような生活に戻ろうと必死なのだろう。<br />
　花火を袋へとしまって、高耶は空を見上げた。<br />
　金色の、幅広の帯の、その向こう。分厚い雲の一部にぼんやりと明るい場所がある。太陽だ。そんなところに隠れてないで、しっかりしろとさけびたい気持ちになった。自分が、太陽から大地を、また大地から太陽を奪い取った張本人だというのに。<br />
　太陽を目にしない生活と言うのは、不思議なものだった。<br />
　毎日なんとなく明るくなり、そして暗くなって初めて夜だと知る。朝焼けも夕焼けもない。生まれたばかりの子供達は、日の光を直接浴びたことがないはずだ。紫外線不足からくる身体への弊害を予防するためか、ビタミン剤の売り上げがうなぎのぼりなのだと聞いている。<br />
　どこかの国の技術を応用して雲を消し去ろうという計画もあったらしいが、頓挫した。<br />
　そういうものではないのだ、この雲は。<br />
　もし本当に消し去ろうと思うのなら、必要なのは祈祷呪術の類だろう。もちろん、そんな修法があれば、自分がとっくにやっている。<br />
　高耶の心に、見上げた空以上に重い暗雲が立ち込める。<br />
　天候不順による影響だけではない。景気低迷、電波・エネルギー問題、教育問題、介護問題、犯罪率増加、四国外への相次ぐ移住による急激な過疎化、四国の人々が抱える問題は、数え切れないほどに山積みだ。<br />
　高耶は眉根を寄せた。<br />
　全ては、自分に責任がある。<br />
　裏四国という"思想"が人々に受け入れられるのにはかなりの時間を要するだろうと言う覚悟は持っていたが、これではその前に四国そのものが破綻してしまう。本当に、死に人だけの島になってしまう。<br />
　本当なら自分が各地を歩いて、復興の指揮を取りたいところだった。しかし今は、何もかもが直江に任せっきりになってしまっている……。<br />
　高耶が抱えている問題は、現代人のことばかりではないのだ。<br />
　全国各地からやって来る怨霊たち。<br />
　耳を澄ませば、いつだって彼らの声が聞こえる。<br />
　荒々しいものばかりではない。さめざめと泣く声、ぶつぶつと呟く声、囁きのような掠れた声。そのすべてに、高耶は耳を傾け、何が最善の道なのか、一緒に考えてやらねばならない。<br />
　もちろんそれは、意識的に行われているものではない。<br />
　改めて命令せずとも呼吸をしたり、身体の細胞が生まれ変わり続けるのと似ている。高耶はいま、彼らと同じ身体で生きているようなものなのだ。四国の山々は高耶の肉であり、河川は血管も同様だ。<br />
　当然、呼吸を乱す何かがあれば、細胞内に悪い働きをするものが紛れ込めば、肉が削られ血の流れが妨げられるようなことがあれば、高耶にはすぐにわかるのだ。<br />
　各地の怨将たちが送り込んでくる刺客たち、四国内まだまだ残る三好や伊達の残党たち、そして赤鯨衆内の反対勢力。それらの排除を的確に行わないと、どんな事故が起こるかわからない。<br />
　なんせ、宿体を持たない死遍路たちは裸も同然だ。身体が傷つけば、魂までをも傷つけてしまうかもしれない。<br />
　信長は自分の弱点をよくわかっている。次に一体どんな手段に出てくるかはわからないが、何があってもこの島だけは護らなくてはならない。<br />
　高耶がそのこと考えてため息をつこうとした瞬間、<br />
「<span class="line">────</span>ッ……！」<br />
　鼻孔に、鉄の匂いが充満した。<br />
「<span class="line">───</span>げほッ……ッゲホ<span class="line">──</span>ッ！」<br />
　高耶は背中を折り曲げると、喉の奥から溢れ出た液体を吐き出した。<br />
　喀血したのだ。<br />
　思わず袋を落として地面に手と膝をつく。ポタポタと、唇から血が滴り落ちた。<br />
　最近ではもう、珍しいことではなくなってしまった。<br />
　目や鼻や耳から、血が流れ出るのは日常茶飯事だ。<br />
　最初は、身体のあちこちから血が出るのと同じように、裏四国を為した反動かとも思った。しかしそれらは痛みを伴わない出血のはずだ。<br />
　今は胸に筋肉の攣るような痛みを感じ、酷い耳鳴りがした。明らかに種類が違う。<br />
「………ッ」<br />
　今度は恐怖で、高耶の胸は締め付けられるように痛んだ。<br />
　急がなければならない。急がなければ<span class="line">───</span>。<br />
　しかし、これ以上どうやって？<br />
　やるべきことが、すべきことがありすぎて、気持ちばかりが逸る。<br />
　分身が何千人も何万人もいたって、追いつかない。直江には、終わりをみては駄目だと言ったことがある。しかし、こなしてもこなしても、最終地点の影すら見えてこない……。<br />
　掌の下にある細かな砂利を握りしめる。ちっぽけで、何の存在の主張もしないこの小石は、きっと自分の身体が朽ちた後もこの世界に在り続けるのだろう。<br />
　生命には、何故期限があるのだろうか。魂は、何故六道を巡り続けなければならないのだろうか。それがこの世のルールならば、そのルールを造ったのは誰だ？しかし自分もまた、そのルールがあったからこそ生まれてくることが出来たのだ。そして、今の自分はもう、そのルールからも逸脱してしまった……。<br />
　そのルールを、この世界そのものを、今すぐ終わらせることの出来るボタンが目の前にあったら、自分はそのボタンを押すだろうか。いいや、自分は信長とは違う。そんなことは絶対にしないし、誰にもさせてはならない……。<br />
　小石を握っていた掌は、いつの間にか左手首で鈍く光る銀色の輪へと伸びていた。<br />
<br />
<br />
　ロッジに戻ると、床に寝そべっていた小太郎が顔をあげてこちらをみた。<br />
「メシは？」<br />
　小太郎は、いらないというように首を元の位置へと戻す。<br />
　高耶は花火の袋をテーブルの上に置きながら、かつてこの男が夏の暑い日に言った言葉を思い出した。<br />
<span class="line">───</span>訓練さえつめば、汗の量はコントロールできるようになるんですよ<br />
　汗をかかない男に、理由を聞いたときだった。<br />
　当時自分はこの男を別人だと思い込んでいたから、脳内で再生されるその声も本来のこの男の声とは別のものだ。<br />
　自分のせいで、この男の人生は変わってしまった。そのことを、獣の姿となったこの男は一体どう思っているのだろう。こうして穏やかな寝顔を見ていると、そうした変化もこの男にとってはそんなに悪くはないものだったのではないかと思えてくる。<br />
　テーブルの上の花火を、再び手に取った。<br />
　花火は昔から、人の一生によく例えられてきた。<br />
　炎と言う命を点され、美しい輝きを放ち、やがて燃え尽きる、疑似生命。<br />
　生命の消えゆくこの島で、人々が花火に求めるものが、手に取るようにわかって痛々しかった。<br />
　半世紀。その間だけ我慢してくれ、と高耶は心の中で謝った。<br />
　終わらない生命がないのと同じ。終わらない季節もないのだから、と。<br />
　よくよく考えてみれば、あの小石だって元は大きな石だったのかもしれない。100年後には風化して、砂になってしまっているかもしれない。花火だって永遠に燃え続ければ、ただの厄介な火の玉だ。<br />
　半世紀を耐えればきっと、また四国にも夏の風景が戻ってくる。生命がより輝きを増す、あの季節が。<br />
　そして、その時自分は<span class="line">───</span>。<br />
　……とにかく、物事の変化を悪く捉えすぎるのはよさなければ。<br />
「小太郎」<br />
　声をかけると、小太郎はふたたび顔をあげた<br />
「花火、したことあるか」<br />
　しゃがみこんで、目線の高さを合わせてやる。<br />
「暗くなったら、卯太郎と一緒にやろう」<br />
　小太郎は傍へ寄ってきて、高耶の手にした花火の匂いを嗅いだ。<br />
<br />
<br />
≫≫　<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/56/"><span class="ver">後編</span></a>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/54</id>
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    <published>2010-08-15T21:31:50+09:00</published> 
    <updated>2010-08-15T21:31:50+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>遍路A　後編</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「オレは……映像のようなもので魂は持っていないから、憑依はできない。けど……どうだろうな。もし、憑依できるなら………」<br />
　青年はしばらく悩んだ後で、<br />
「一度だけ、試してみてしまうかもしれない。ほんの、短い間だけ、誰かに身体を借りて……そして……」<br />
　そのまま黙ってしまう青年の横で、私は何だか納得がいかなかった。<br />
　生きる意欲？肉体への執着？それがあれば、私は成仏する必要がないということか？<br />
「私も憑依できるのか？」<br />
　問いかけると、青年は夢想から醒めたような顔になった。<br />
　そして、<br />
「やってみるといい」<br />
　青年が顎で指し示した先には、カメラを持った若い男がいる。最近開発された、四国内でも使えるという最新式のカメラだ。どこかの報道機関の人間のように見える。<br />
「どうやればいい」<br />
「身体の中に入って、持ち主から主導権を奪うんだ」<br />
　私は頷くと、立ち上がって若者の方へと歩いて行った。<br />
　すると若者がこちらに気付いて、親しげに話しかけてくる。<br />
「写真、取りますか？四国の外に御家族がいたりします？メッセージなどあれば、言付かりますが？」<br />
　それを聞いて、最近の新聞には四国の死者から寄せられた通信欄のようなものが必ずあることを思い出した。私は半信半疑だったからいつも読み飛ばしていたのだが、こういう事情があったのだな、と納得がいった。<br />
「失礼します」<br />
「え……！ちょ、ちょっと！」<br />
　私は一応断りを入ると、勢いをつけつつ思いきって若者の身体の中に飛び込んでみた。<br />
　すると。<br />
「うわあっっ！！」<br />
　私は若者の身体から弾き返されて、地面に尻もちをついた。<br />
「やめてくださいよ、もう」<br />
　当の若者はカメラを手にしたまま、頭をかいている。<br />
　いきなり憑依しようとするなんて、マナーがなってないよなあ、とかなんとか言いながら、彼は去って行ってしまった。<br />
　私は腰をさすりながら、仕方なく元の場所へと戻る。<br />
　一連の出来事を椅子に座ったまま眺めていた青年には、最初からこうなることがわかっていたらしい。<br />
「簡単にはいかないだろう」<br />
　諭すように、そう言った。<br />
「……いっつもこうだ」<br />
　私は再び胡坐をかくと、そう呟いた。<br />
「誰かに憧れて真似をしてみても、絶対にうまくいかない。何か目標を持ってやってみても、達成できたためしがない」<br />
　いつも、あきらめてばかりの人生だった気がする。<br />
「意志が弱いんだ……」<br />
　暗い気持ちになる私に、<br />
「どうかな」<br />
　青年は首を傾げた。<br />
「あんたは、誰かの真似をしていても、その人間と同じようにすること以外に道を見つけられたから同じにならなかったのかもしれない。定めた目標を達成する前に満足のいく結果を得られたから、無理して達成しようとはしなかったのかもしれない。それを、意思が弱いと呼ぶべきかどうか。自分自身をよく理解し、状況を判断する能力に長けているとも言えなくはないだろう？」<br />
　自分のことを、そんな風に言われたのは初めてだった。<br />
「意思が強いとされる人間が目標を達成して、そのあとどうなる？きっと次の目標を掲げるだろう。その目標が達成されれば、その次。際限なく次へ、次へと……果たしてそれが、正しいことなのかどうか……」<br />
　青年は考えながら、先を続ける。<br />
「オレは、そういう人間をひとり知ってる。そいつは、もっともっとと欲しがって、周囲を巻き込むだけ巻き込み、傷つけ、大勢の人間を殺し、この世の理までも根底から覆して……愛する人間に途方もない目標を押しつけて、死んでいった」<br />
　そこまで言うと、青年は私の目をまっすぐ見て言った。<br />
「あんたは懸命だったから、そうならずに済んだのかもしれない」<br />
　青年が赤心を語ってくれたことがわかって、私も思わず本音で答えていた。<br />
「そうかな……私がもっとうまく立ちまわれていれば、死なずにすんだのではないかな……」<br />
「何言ってる。あんた、病気で死んだんだろ？」<br />
「そうなんだけども」<br />
「だったら、あんたが死んだのは、あんたのせいじゃない。なんだ、そんな風に考えてたのか？」<br />
　そう、私はそんな風に考えていたのだ。私は、人生のやり方を間違ったのではないかと。そのせいで死ぬことになってしまったのではないかと。そして、自分の人生が全て誤りであったという結論が出てしまうことが怖くて、過去を振り返ることができないでいる。もしかしたら、歩くことが嫌なのも、振り返る勇気が持てないからかもしれない……。<br />
「答えは、あんたにしか出せないんだ」<br />
　青年はきっぱりと言った。<br />
「そして普通、その答えは歩きながら考えるもんなんだけどな……」<br />
　どうしたもんか、という顔をしていた青年が、ハッと顔をあげた。まるで、誰かに呼ばれたかのように。<br />
「あんた、運がいい」<br />
　その時、青年の笑うのを、私は初めて目にした。人の心を惹きつける、何とも魅力的な笑顔だった。<br />
「もしも本当に、遍路道を歩かずともあの世に行ける方法があるとしたら、どうする？」<br />
「え」<br />
「今すぐこの場で、浄化出来るとしたら？」<br />
「……そんなこと」<br />
「浄化をしてしまえば、過去を振り返るチャンスは二度と来ない。そのことを踏まえて考えてみてくれ」<br />
　有無を言わさぬ強さでそう言うと、青年は腕組みをしたまま眼を閉じてしまった。<br />
「…………」<br />
　考えろと言われても、困ってしまう。散々歩きたくないとゴネた身だ。けれど青年と話しているうちに、彼とともに歩いてみるのも悪くはないかもしれないと思い始めていた。人生を一から見つめ直すなんて、自分ひとりでは怖くて出来ないけれど、彼とふたりならば出来そうな気がする。もしどんな結果になったとしても、彼ならきっと的確なアドバイスをくれるだろう。<br />
　そう考えると、ゴールへ辿り着いた時に彼が自分に対してどんな言葉をかけてくれるのか、非常に興味が湧いてきた。<br />
　それからしばらく経って、青年は椅子からスッと立ち上がると、私に告げた。<br />
「時間切れだ」<br />
　見ると駐車場に、一台の車が入って来る。停まった車からは、黒づくめの男がひとり、降りてきた。<br />
「こっちだ」<br />
　青年が声をかけると、男はこちらへ向かって歩いてくる。<br />
　その男は、生身の人間のように見えた。が、実際のところはよくわからない。不思議な風貌の持ち主で、その容姿には関係なく、何か年月を超越したような雰囲気を持つ男だった。<br />
　青年と視線を合わせても、男は言葉を発さずに頷くのみだ。<br />
「さあ、どうする？」<br />
　青年が、私に向かって言った。<br />
「答えを聞こう」<br />
　私は深く息を吸うと、頭の中で準備しておいた答えを言った。<br />
「歩いてみようと思う」<br />
　すると青年は、嬉しそうな表情になって頷いた。<br />
「自分の中の答えを、何とか探し当てたいと思う。君も一緒に来てくれるんだろう」<br />
「もちろんだ」<br />
　青年は私の言葉に応えると、今度は男の方に向き直った。<br />
「だそうだ」<br />
「ええ」<br />
　男は深く響く、印象的な声で答えた。<br />
「浦戸に寄ってから剣山に向かうんだな？」<br />
「そのつもりです」<br />
「なら、足摺にも行ってくれ。少し、気が乱れてる」<br />
「わかりました」<br />
　男はそう答えると、一礼してそのまま車へと戻っていく。<br />
「<span class="line">───</span>……」<br />
　男の後ろ姿を見送る青年の瞳は、もしかしたら私の思い違いかもしれないが、少し、切なげに見えた。<br />
　やがて車が出ていくと、<br />
「さてと」<br />
　青年は私に向かって言った。<br />
「オレの名前を言っておく」<br />
　そう言えば、私たちはまだ、自己紹介すらしていなかった。<br />
「オレの名前は仰木高耶」<br />
　その名を聞いて、私はようやっと思い出した。世間に"今空海"の名を馳せながらも、若くして亡くなったという青年の話を……。<br />
「あんたの名前は知ってるけど……何て呼べばいい？」<br />
「私は<span class="line">───</span>」<br />
　私は仰木高耶に、自分の苗字を言った。]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
  </entry>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/53</id>
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    <published>2010-08-15T21:24:39+09:00</published> 
    <updated>2010-08-15T21:24:39+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>遍路A　前編</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「嫌だ」<br />
　私は、再び首を横に振った。<br />
　青年は私の横に立って、呆れたような顔をしている。<br />
「別に、ノルマがあるとかそういうんじゃない。あんたの歩きたいペースで、歩きたいように歩けばいい」<br />
　まあ、順番は決まってるけどな、と青年は付け足す。<br />
「嫌だ」<br />
　私は、三度首を横に振った。<br />
「……あっそ」<br />
　彼はくるりと後ろを向くと、そのまま歩いて行ってしまった。<br />
　それを見て、私は先程の強気な発言とは裏腹に、急に不安に襲われる。こんなところで放置されてしまって、一体この後どうしたらいいのだろう。<br />
　ここは、四国八十八カ所第一番札所・霊山寺の駐車場。<br />
　そこで私は、地面に胡坐をかき、腕組みをしながらしかめっ面をしている。<br />
　そのままどこかへ去ってしまうかと思われた青年は、社務所のすぐ傍に設けられた休憩所から椅子を一つ持ち上げると、戻ってきて私の隣に置いた。<br />
「時間はたっぷりある。好きなだけゴネればいいさ」<br />
　そう言うと、青年は置いた椅子に腰掛けた。背もたれに寄りかかって、長い足をゆったりと組む。そうして腕組みで、駐車場に停まっているおんぼろマイクロバスの傍でたむろする賑やかな一行に眼を向け始めた。<br />
　私は、その横顔を恨めしい思いで見つめた。<br />
　黒いストレートの髪。健康的な肌色。言い知れぬ強さを秘めた赤茶色の不思議な瞳。奇妙なことに、私はこの青年の姿を幾人も見かけたが、他の青年たちは白い着物の姿であることが多く、同じ白ではあるが丈の長い印象的なコートを羽織っているのは"私の青年"だけだった。<br />
　映画にでも出てきそうな容姿をしたこの青年は、先程私に「あんたは死んだんだ」とストレートに告げてきた。<br />
　別に私はその態度が年上に対するものとは思えなかったから怒っている訳ではない。<br />
　ここへ辿りつく前に、もしかしたら私は死んだのかもなあ、とぼんやり思ってはいたから、告げられた事実に仰天して腹を立てている訳でもない。ちなみに言うと、同時に知らされたこの青年が成仏するまで見届けてくれるというおせっかいなシステムにも、いつの間にか着せられていたこの白い装束にも、別に文句を言うつもりはない。ただ私は、<br />
「何で成仏するのに四国中を歩き回らなきゃいけないんだ！！」<br />
　このことに、怒っているのだ。<br />
「結構、あっという間だぜ？もう一周したい、なんていう人だっているくらいだし」<br />
「二周するとどうなる？スタンプカードが二枚になって、景品と交換できるのか？」<br />
「……その発想は、無かったな」<br />
　青年は、再び呆れ顔になって私を見下ろしてきた。困ったヤツ、と思っているのがよくわかる。<br />
　私の中で、猛烈に反抗心が湧きあがる。<br />
　自慢じゃないが、生前の私は運動という代物には全く縁がなかった。<br />
　生来身体が丈夫じゃなかったという理由もあるが、何故好き好んで筋肉を酷使したり汗をかいたりしなければならないのか、さっぱりわからない。人間の身体は、日々の生活で充分にカロリーを消費出来る仕組みになっている。それを無視してまでカロリーを過剰消費し、それを補うためにカロリーを過剰摂取する……。馬鹿げている。<br />
「巡回バスとか、タクシーを使っていいとか……」<br />
「あんなのは、生身の人間が使うもんだ」<br />
「そういえばさっき、君は姿を自由に変えられると言っていたな」<br />
「オレに、他者の姿を投影する人もいるって言ったんだ」<br />
「なら、乗り物になって欲しいと私が思えば、君は乗り物に変身できる？」<br />
「……本気で言ってるのか」<br />
　ジロリと睨まれてしまった。<br />
　はあ、と私は深くため息をつく。本気だったのに。<br />
「一体いつから……どうしてこんなルールができたのか……」<br />
　少なくとも私の両親が子供の頃には、こんなシステムはなかったはずだ。母は小さい頃高知に住んでいたから、以前の四国というものをその目で見て知っていた。"こう"なる前の四国には死者が集まることもなく、他と変わらない土地だったという。きっと大昔にあったという"大事故"や、ＡＰＣＤに関する一連の事件が……。<br />
（ん？）<br />
　そう言えば私は、この青年の顔をどこかで見たことがあると思った。<br />
「死んで、魂はどこへいく？」<br />
「………？」<br />
　私は、隣に座る青年を見上げた。<br />
「あの世、かな」<br />
　漠然と答えてみる。"あの世"というものの存在自体には疑問を持っているが、自分が成仏した後に行くべき場所に名前をつけるとしたら、それしかないだろう。<br />
「そう」<br />
　青年は、当然といった顔で頷いた。<br />
「しかしこの世に未練を残して死んだ魂は、あの世へは行けない。だからといってこの世に居場所が用意されている訳でもない。だから以前は、居場所を得るために生きている人間の身体を乗っ取るしかなかった」<br />
「乗っ取る……」<br />
「そう。そのせいで、この世に残ってしまった霊魂は、長らく存在してはいけない存在として扱われてきた」<br />
　青年は、遠い昔を振り返るような目つきになった。<br />
「オレは、この世に未練を残して死ぬことは、罪ではないと思った。けれど生き人の身体を乗っ取って、人生を害することは罪だと思った。だから、このルールを実行することにしたんだ」<br />
　"ルールを実行"？聞き違いか、と一瞬自分の耳を疑ったが、いや、間違いなく彼はそう言った。つまり彼が、このシステムを作ったということか？<br />
「ここでなら、生き人の生を害することなく、居場所を得ることができる」<br />
　驕った風でもなく、彼は素直にそう話した。まるで、今まで何百回、何千回もそう説明してきたかのように。そしてその様子は、相手にそのことが当然であると納得させる力を持っていた。<br />
「つまり私は、未練があったからこの世に残ったのか」<br />
「それはあんた自身のことだ。自分でよくわかってるだろう？」<br />
「わからないから聞いているんだ」<br />
「……そういったことも、本当は歩きながら考えるんだ。立ち止まらず、前に進むことでしか見えないものがあるからな」<br />
「どうしても、歩かなくては駄目なのだろうか。今すぐに成仏する方法は、ないのだろうか」<br />
「エスケープは、余程の理由が無い限り駄目だ。あんたはただ歩くのを面倒臭がって言ってるだけだろう？だったら、理由としては不十分だな」<br />
　私は、またため息をつくしかなかった。<br />
　やはり、歩かねばならないのだろうか。<br />
　すっかりうなだれてしまって、ぼんやりと社務所の様子を眺めていると、男性がひとり、何かの袋を手に持って出てきた。私の視線は、その人物に釘付けになる。<br />
「あの男、生きてる人間とは何かが違う……」<br />
「……憑依霊だからな」<br />
「ヒョウイレイ？」<br />
「つまり、生き人の身体を死者の魂が乗っ取った状態ってことだ」<br />
　そう言われて、えっと思った。<br />
「それは、しなくてもよくなったんじゃなかったのか？」<br />
　青年は、痛いとこを突かれたとばかりに苦い顔になる。<br />
「死者の中には、肉体を欲しがるものもいる」<br />
「それを君は許してるのか！？」<br />
「許してるのは、あの憑巫……つまりあの身体の本当の持ち主である魂だ。そいつの生きる意欲より、あの憑依霊の肉体への執着心が勝っているってことなんだ」<br />
　そんなのおかしい！、と私は思わず叫んでいた。<br />
「身体は持ち主のものであるべきだろう！」<br />
「そうだな……その通りだ。でもオレには、あの憑依霊が肉体にしがみつきたくなる気持ちを否定もできない。肉体を持ち、生きるということは、ものすごく……」<br />
　そこまで言って、青年は次の言葉を紡ぐのに、とても時間をかけた。<br />
「ものすごく、素晴らしいことだ。もう一度、と思う気持ちもよくわかる」<br />
　そう言いながら、一方でそのことを許してはいないという意思もよく伝わってきた。青年の中に、死者の想いを否定したくないという気持ちと、生者の人生を護りたいという矛盾した気持ちがあることは、何となく察しがついた。そして、"素晴らしい"という表現に、もっと違った意味が込められているということも。<br />
「君も、憑依したいと思っているのか」<br />
　私がそう言うと、青年はびっくりしたような顔をした。]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/52</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://huryumonji01.blog.shinobi.jp/tanpen/bitter%20gift%E3%80%80%E5%BE%8C%E7%B7%A8" />
    <published>2010-07-25T22:03:43+09:00</published> 
    <updated>2010-07-25T22:03:43+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>bitter gift　後編</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　静けさを取り戻した川縁のその場所に騒がしい少年達の声が聞こえてきたのは、直江が去ってからしばらく経ってからだ。<br />
「こっちこっち！」<br />
「めんどくせーなー。どーせオレにはみえねーのに」<br />
「じゃあ、図書館行って勉強する？」<br />
「……そのほうがめんどくせー」<br />
　人の好さそうな少年が、ちょっとグレた少年の腕を引っ張りながらやって来た。<br />
　話の様子からすると、どうやら市内の中学生らしい。<br />
「その人ね、旦那さんに浮気されて、しかもその浮気相手の人に<span class="line">───</span>」<br />
　とても中学生のする話とは思えない内容のことを喋りながら歩いてきた人の好さそうな少年が、ふと立ち止まった。<br />
「あれ……？いない……」<br />
　困惑した顔で、周囲を見渡している。<br />
「天国いったんだよ、天国。……地獄かもしんねーけど」<br />
「あんなに想いの強い人が自然に消えちゃうなんて、初めてだよ………」<br />
「人じゃねーだろ」<br />
　軽い調子でグレた少年が言うと、<br />
「死んだって、人は人だよ！」<br />
　人の好さそうな少年は、ひどく怒って友人を睨み付けた。<br />
「何だよ……」<br />
　グレた少年がちょっと怯んで目を逸らすと<span class="line">───</span>、<br />
「おっ？」<br />
　逸らした先に、少年の大好物がこれみよがしに置かれている。<br />
「らっき♪」<br />
　それは、先ほど直江の置いていった、青いパッケージの煙草だった。<br />
「えええ！！やめなよっ、落ちてるのなんて！」<br />
「だって封あいてねーもん」<br />
　少年は早速封を開けて、ポケットに入っていた100円ライターで灯をつけた。<br />
　思い切り息を吸い込んで、「げー、きちぃー」と煙を吐き出している。<br />
「そんなの、身体に悪いだけなのに」<br />
「誰かが、オレに早死にしろって置いてったんだろ。きっと」<br />
「そんなわけ無いじゃん！………もしかしたら、神様からの誕生日プレゼントかもね」<br />
「まさか。神様がそんな親切なことする訳ねーじゃん」<br />
（………そうだよね）<br />
　人の好さそうな少年は、煙を吐き出す友人の横顔を見ながらふと思った。<br />
　この友人が、不健康な苦い煙ともに飲み込んでいるのは、きっともっと苦くて痛い何かなんだろう。彼が、生まれついた境遇について神様に恨みを言ったことも、一度や二度ではきかないはず。その結果、神様はこの友人の信頼を失ってしまったのだ。<br />
「………じゃ、用も済んだし、戻って勉強しよっか」<br />
「今日はもーいーだろ。ここまで歩いてきて疲れちまったし」<br />
「一緒の高校行くんだろ！ほらっ！」<br />
　ふたりは来るときと同じように、腕を引っ張り引っ張られしながら、やがてやって来た方向へと消えていった。<br />
<br />
<br />
<br />
　翌日。<br />
「譲、今日も図書館？」<br />
「うん」<br />
　例の人の好さそうな少年が、ニュース番組を見ながら遅めの朝食をとっていると、<br />
『23日午後8時頃、長野県松本市内の児童公園で、身元不明の女性の遺体が発見されました。松本県警によると、遺体は市民からの通報により<span class="line">───</span>』<br />
　あ、と少年は声を上げた。<br />
　あの彼女がいた場所から、少しだけ西に行った所にある公園だ。<br />
（きっと、あのひとの遺体だ……）<br />
　遺体が発見されたから成仏できたのかもしれない、と思いついた。<br />
　時間的にズレがあるような気はするが、細かいことはあまり気にしない。<br />
（いいニュース、だよな？）<br />
　彼女は本願成就した訳だ。<br />
　きっと、受験生である自分達にとっても幸先のいいニュースに違いない。<br />
　昨日、一足早く十五歳になった友人にも早く教えてあげたいと、少年はコーヒーを一気に飲み干した。<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/51/"><span class="ver">後編</span></a>　≪≪]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
  </entry>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/51</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://huryumonji01.blog.shinobi.jp/tanpen/bitter%20gift%E3%80%80%E5%89%8D%E7%B7%A8" />
    <published>2010-07-25T22:02:27+09:00</published> 
    <updated>2010-07-25T22:02:27+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>bitter gift　前編</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　松本という土地へやってくるのは、今生では初めてのはずだった。<br />
　それなのに「あずさ」から降りた直江が駅の外に出てみると、肌がどこか懐かしい匂いを感じ取ったのだ。<br />
　前生でも、特に馴染みがあった土地という訳ではないのだが。<br />
「<span class="line">───</span>………」<br />
　妙な予感を感じた。<br />
　この土地には、きっと何かがある。<br />
　自分にとって、大きな意味を持つ何かが………。<br />
　そんなことを思いながら、直江は一路松本城へと向かって歩き出した。<br />
　今回の旅の目的は、調査だ。<br />
　調査内容は、松本城をはじめとした信州方面の戦国縁の地を巡って怨将の、とくに武田方に表立った動きがないかを探るというもの。何か事件がおきて、それに関わることを至急調べなくてはならないという訳ではないから、直江としては気が楽だった。<br />
　松本城周辺に変わった様子はないと判断した直江は、既に手配をしてあったレンタカーに乗り込み、妻女山やその他思いついた場所を順繰りに巡って行く。どこも平和そのものの景色が広がっていたが、妻女山では自分に気付いて襲ってた武田方の霊を何体か調伏した。<br />
　最後に、川中島へとやってくる。<br />
　目前に流れる千曲川を、いつも使っているのとは違う眼で見てみれば、すぐに紅く染まっているのが見て取れた。<br />
　いつの時代に訪れても、この河の紅さが薄まることはない。予想はしていたが、他の場所とは比べ物にならないくらい地縛霊が多かった。<br />
　遠い昔、最初の換生時にここを訪れた際は、武田どころか混乱した上杉方の霊までが大量に襲いかかってきて、調伏しまくったものだった。<br />
　あれから四〇〇年が経つというのに未だにこれだけの地縛霊が残っているということは、それだけの人が死んだということなのだろう。龍虎が猛々しくぶつかり合った、あの合戦で。<br />
　実際、当時の千曲川は本物の血で紅く染まっていた。<br />
　周囲にいた仲間たちの決死の形相が思い返される。きっと自分も同じような顔をしていたに違いない。<br />
　あの時の強い想いは、この土地に染み込んだままずっと残り続けていくのかもしれない。自分たちの想いが濃すぎたせいで、この河は永遠に紅いままなのだ。<br />
　平和な現代からは想像もつかないだろうが、あの当時は文字通り命を賭けた闘いが、この場所で繰り広げられていた。いや、この場所だけでなく、あの頃は皆、生きていくのに必死だった。<br />
　身分制度の線引きが、江戸の時代ほどはっきりとはされていない頃だった。一部の特権階級の人々以外は皆、清潔な衣服を確保し、少しでも栄養価の高い食物を手に入れ、安心して眠れる家を築こうと自らの仕事に励んだ。生活とは、生を活かす術に他ならなかった………。<br />
　静かに過去を振り返っている直江の前を、比較的霊齢の若い霊が通り過ぎていく。<br />
　この場所には、合戦の死者に引き寄せられた為か、様々な霊齢の霊がいた。皆それぞれ自分のことに必死で、直江がいることにも気付いていない様子だ。<br />
　その様子が、直江の脳の中にある膨大な景色の記憶の中から半世紀前の大戦中の風景を呼び起こさせた。大空襲の最中の、あの生々しい地獄絵図と。<br />
　よほど大事な物が入っているのか、小さな桐の箱をそれを握る千切れた自分の腕ごと抱えて走る老人。親とははぐれてしまったのか、周囲の大人たちに押しつぶされながら手をつないで必死に逃げている幼い姉妹。小さな身体で寝たきりの老婆を背負って一生懸命に歩く女性。しかし老婆は、自分のことはもういいからどこぞへとすてて行ってくれと涙ながらに訴えている。<br />
　そこに若い男性の姿はなかった。皆、徴兵されてしまっているからだ。<br />
　死んでしまった母親の腕の中で泣き続けている乳飲み子を、やはり既に亡くなってしまった我が子を抱いて走る女性が蹴飛ばしていく………。<br />
　そして、それを目の前にして為す術なく立ち尽くす"彼"の嘆き。<br />
<span class="line">───</span>何なんだ、これは……！！<br />
<span class="line">───</span>自分たちはいったい、何のために存在しているのか……。<br />
　頭の中で鮮やかに甦る彼の悲痛な叫び声は、やがて直江を責める声へとスライドしていった。<br />
<span class="line">───</span>お前だけは、絶対に許さない！！<br />
　ぼんやりと眼の前の霊たちを眺めながら、直江は過去を振り返り続ける。<br />
　きっとここにいる霊たちも自分と同じように、過去に何かを抱えているからこそ今ここにいるのだろう。<br />
　そして互いに干渉しあうことなく、延々この場所に留まり続ける。<br />
　ふと、今と言う時代に似ていることに気が付いた。<br />
　空襲のような緊急事態でもないのに、周囲との関わりを断ち己の目的のみを追求する人々。社会という言葉が、人同士の繋がりで出来たもの、コミュニティではなく、単なる共有されたシステムのみを指差す言葉になってしまった。<br />
　律令国家の正しい在り方とは、こういうものなのだろうか。人々の平等を心から願っていた彼の目に、今の世はどう映るのだろうか……。<br />
「<span class="line">───</span>……」<br />
　どんな些細な事柄も、自然と"彼"へと繋げて考えてしまう自分がいる。<br />
　生死すらわからない状況になってなお、彼は自分を見えない鎖で縛り続けている。<br />
　そのことに気付いた直江は、苦しげに眉根を寄せた。<br />
　心の中に、複雑な感情を抱えながら………。<br />
<br />
<br />
<br />
　松本駅まで戻る途中、何だか厭な気配を感じてそちらの方向へと車を向けてみた。<br />
　そこは女鳥羽川沿いの、人気の少ない一角だったのだが、<br />
（………酷い霊気だな）<br />
　どす黒い霊気が異臭を放ちながら、濃霧のように吹きだまっている。<br />
　その中心に、まだ亡くなって間もないあろう女性の霊がぽつんと立っていた。<br />
　黒くて、長い髪。<br />
　一瞬、自分が犯し、殺したあの聖母が脳裏に浮かぶ。<br />
　女性の霊はこちらに気付いて、か細い声で言った。<br />
<span class="line">───</span>あのひとを返して<br />
　どきりとした。<br />
　自分の過去を覗き見されているような錯覚を覚えながら、直江は問い返す。<br />
「何のことだ」<br />
<span class="line">───</span>……私の夫<br />
「……誰かに奪われたのか」<br />
<span class="line">───</span>ええ、あの女に<br />
　女の顔がひどく曇った。<br />
<span class="line">───</span>だから殺してあのひとを取り返してやろうと思ったら<br />
　くるりと後ろを向くと、<br />
<span class="line">───</span>このざまよ<br />
　その背中には、深々と包丁が突き刺さっていた。<br />
　周囲の皮膚は腐り、肉が爛れ落ちている。<br />
<span class="line">───</span>ああ、痛い<br />
　女はそう言いながら、再びこちらを向いた。<br />
　よく見れば、乱れた衣服からのびる手足も腐食が始まっている。<br />
「……………」<br />
　自業自得、だろうか。<br />
　浮気相手を殺したからといって、夫が自分の元へと帰ってくる訳でもないだろうに。<br />
（俺が言えた義理じゃないな………）<br />
　どちらにしても、彼女は自分の命でその過ちの代償は払った。<br />
　過去の呪縛から解放されたって、誰も文句は言わないだろう。<br />
「楽になりたいだろう？」<br />
　ところが、直江が話しかけた時にはすでに女は自分の世界へと戻って行った後だった。<br />
<span class="line">───</span>あなたがミユキさん？<br />
　あらぬ方へむかって話しかけている。<br />
<span class="line">───</span>お話があるんです<br />
　彼女の目には、自分を殺した浮気相手の幻が見えているらしかった。<br />
　直江の胸が、罪悪感で痛みだす。<br />
　今日、松本の駅へ降り立ったときに感じた予感は、この女性との出会いを暗示していたのだろうか。自分の過去を抉り出すような、この出会いを。運命の神は、随分と苦々しいハプニングを目論んでくれたものだ。<br />
<span class="line">───</span>そう。どうしても別れないというんですね……<br />
　女は包丁を手元のカバンから取りだす仕草をしている。<br />
　延々とプレイバックされる過去。それがどれほど苦しいものか、直江はよく知っていた。<br />
　覚悟を決めて、印を結ぶ。<br />
「来世ではきっとすべてがうまくいく」<br />
　呟きながら、そう祈りをこめて。<br />
「なうまくさまんだぼだなん<span class="line">───</span>」<br />
<span class="line">───</span>なら、こうするしかないわね……っ！！<br />
「《調伏》」<br />
　直江の宣言で、ナイフを何もないところに向かって突き立てる仕草をしていた女を大きな光がすっぽりと包んでいく。<br />
　その姿が消える最後の瞬間、彼女は何故か西の方向をすっと指差した。そして、<br />
<span class="line">───</span>ありがとう<br />
　間違いなく、そう言った。<br />
「<span class="line">───</span>……」<br />
　合掌を解いた直江は、光が全て収束した後もその場にじっと立ち尽くした。<br />
　黒い霊気がさらさらと風に吹かれて飛ばされていく。<br />
　数え切れぬほど行ってきた調伏と言う行為だが、大抵は暴力としか言いようのない使い方になってしまう。彼女のように、調伏を救いとして捉えて貰えることは、直江に取っても嬉しいことだった。<br />
　そして、それこそが"彼"の目指した《調伏》だった。<br />
「<span class="line"><span class="line">────</span></span>景虎様……」<br />
　左手首の傷が疼きだす。堪えるように拳を強く握った。<br />
「……景虎様………っ」<br />
　無性に彼に会いたかった。<br />
　会って、自分は独りでいてもあなたのいう理想を現実のものとすべく努力しているのだと報告したかった。こんなにも自分はあなたのことばかり考えている、いつだってあなたとともに生きているのだと。<br />
　時折発作のように訪れるその感覚を無理やり心の奥底へ押し込むと、直江は彼女への線香代わりにと煙草を取り出して、封の開いていないその青い箱をそのまま地面に置いた。<br />
　あれからもう、四半世紀が経ってしまった。<br />
　自分はいったいいつまでこんなことをやっていなければいけないのだろう。<br />
　両の手をポケットにいれたまま、しばらく前髪を風に煽られていた直江は、やがてあきらめたように目を閉じると、踵を返して車に乗り込んだ。<br />
（いつまで、なんて考えても無駄だ）<br />
　大事なのは、今すべきことがきちんと出来ているかどうか。<br />
　いつかに言われた言葉を胸のうちで唱える。<br />
　再び無意識のうちに景虎へと繋げて考えていることに気付かないまま、直江は車のキーをまわすと、ゆっくりと車を発進させた。<br />
<br />
<br />
<br />
≫≫　<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/52/"><span class="ver">後編</span></a><br />
<br />
<br />
<br />
※　更新後に直江は川中島の合戦に参加していないことを知りました。<br />
　　勉強不足で、申し訳ありませんでした～！]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/50</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://huryumonji01.blog.shinobi.jp/tanpen/uncanny%20people%2008" />
    <published>2010-07-16T23:42:12+09:00</published> 
    <updated>2010-07-16T23:42:12+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>uncanny people 08</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「"換生"って言ったか」<br />
　発進してすぐ、俺は橘に話しかけた。<br />
「霊が生きている人間の身体を完全に乗っ取ることができるのか」<br />
「ああ」<br />
「見たことあるのか？」<br />
「……………」<br />
　橘は無言だったけど、俺はそれをイエスととった。<br />
　ある意味、殺人現場を目撃したのと同じことだ。<br />
　是非、話を聞いてみたかった。<br />
「身体を乗っ取った霊と、話をしたこともある？」<br />
　けれど、橘はあまり話したくないらしく、何を聞いても無言のままだった。<br />
　仕方なく俺も黙り込んで、もうすぐ宇都宮の駅につくかという時。<br />
「そんなに換生に興味があるか」<br />
　橘の方から口を開いた。<br />
「<span class="line">────</span>もちろん！」<br />
　慌てて俺は返事をする。<br />
　車は、赤信号のために停車した。<br />
　橘が、ステアリングを握る手を緩める。<br />
　その動きを見つめていると、<br />
「俺がその換生者だ」<br />
「………え？」<br />
　一瞬、聞き違えたかと思った。<br />
「四〇〇年前に初生を終えて以来、俺は他人の身体に換生しながら生き続けている」<br />
「<span class="line">───</span>何を言って………」<br />
　橘の無表情は、固まったように崩れない。<br />
「換生者には、ルールがある」<br />
　橘の表情以上に身体を硬くした俺に、橘は話を続ける。<br />
「自分が換生者であるということを他人に知られてしまったら」<br />
　ステアリングを緩く掴んでいた拳が、ぎゅっと握られた。<br />
「その人間を殺さなければならないんだ」<br />
　俺は息をのんだ。<br />
「<span class="line">───</span>あ……」<br />
　恐怖で身体が動かない。<br />
　頭がうまく働かず、どうしていいかわからない。<br />
　とりあえず、何か言わないと。<br />
　笑い飛ばす？それとも<span class="line">───</span>命乞い？<br />
　………が、しかし。<br />
「冗談だ」<br />
　橘のそのひとことで、俺の頭は再び真っ白になった。<br />
　信号が青に変わって、車が動き出す。<br />
「<span class="line">───</span>っだあああ！マジで怖えぇ～～～！！」<br />
　俺は年甲斐もなく、叫んでしまった。<br />
　けれどそのお陰で、身体がほぐれてホッと息をつく。<br />
「いやあ、してやられたなあ～」<br />
　笑いながら辺りを見回すと、まもなく駅前のようだ。<br />
　あのアヤコじゃないけれど、安心したら腹が減って来た。<br />
　駅弁はやっぱり餃子かな、なんて考えながら何気なく隣の橘を見ると、<br />
（あれ……？）<br />
　まだ、あの無表情のままだった。<br />
　それで、ふと嫌な考えが過ぎる。<br />
（どこからどこまでが冗談……？）<br />
　再び全身を寒気が襲って、言い知れぬ恐怖に必死で堪えていると、<br />
「！？」<br />
　車がぴたりと止まった。<br />
（ええええ！？）<br />
　心臓をバクバク言わせながら橘を見ると、一言。<br />
「降りろ」<br />
　駅に着いたのだ。<br />
「あ、ありがとうございました」<br />
　車を降りて、きちんと敬語であいさつしながらお辞儀をすると、サイドウィンドウが開く。<br />
「もう二度と、俺の前に現れないように」<br />
　かなりきついことをさらりと口にした橘は、<br />
「それから」<br />
　やっと無表情を崩して、微笑を浮かべた。<br />
「お父さんを大切に」<br />
「………はい」<br />
　窓を閉めると、ベンツは、軽快なエンジン音をたてて走り去っていく。<br />
　俺はしばらく突っ立って見送っていたが、切符を買わなければと思ってのろのろと改札へ移動した。<br />
　帰ったらチーフになんて報告しよう。<br />
　この世のものとは思えない体験のこと。食いしん坊でちょっと調子のいい女子大生霊能者のこと。そして、掴みどころのないあの男のこと。<br />
　話しても、信じて貰えないかもしれない。<br />
「………まあ、いっか」<br />
　とりあえずは週末、母親でも誘って、父親の墓参りにいこうと思った。<br />
<br />
<br />
<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/49/"><span class="ver">07</span></a>　≪≪]]> 
    </content>
    <author>
            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://huryumonji01.blog.shinobi.jp/tanpen/uncanny%20people%2007" />
    <published>2010-07-16T23:41:05+09:00</published> 
    <updated>2010-07-16T23:41:05+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>uncanny people 07</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「あ、起きた」<br />
　気がつくと、俺は公園のベンチで横になっていた。<br />
　痛む頭を抑えながら、ゆっくりと身体を起こす。<br />
「あれ……俺、どうして……」<br />
　すぐ隣に立っていたアヤコに尋ねはしたものの、すぐに状況を思い出した。<br />
　足元のほうには、橘が立っている。<br />
「なんだったんだ、アレは」<br />
　その端正な顔に、思わず尋ねていた。ところが、<br />
「憑依されたのよ」<br />
　答えは別のところから返ってきた。<br />
　アヤコがほっとした顔をしながら説明してくれる。<br />
「ヒョウイ？」<br />
「霊に身体を乗っ取られたの」<br />
「<span class="line">───</span>……」<br />
　それを聞いて、俺は言葉を失った。<br />
「<span class="line">───</span>まさか」<br />
「だって、感じたでしょう？自分の身体の中に霊がいるのを」<br />
「霊………アレが？」<br />
　思わず腹のあたりをさすっていた。<br />
（そうか……アレが……）<br />
　急激に、気分の悪さが吹き飛ぶくらいの高揚感が湧き上がってきた。<br />
「……すげえ！ああ……！カメラまわしときたかった……！」<br />
　ああああ、と言いながら俺が悔しそうに頭をかきむしっていると、<br />
「あんた、全然わかってないのね」<br />
　アヤコがあきれた視線を送ってきた。<br />
「え？」<br />
「換生されかけたのよ、あんた」<br />
「カンショウ？」<br />
　そんな専門用語を言われても、よくわからない。<br />
「身体から追い出されそうになったでしょう？霊が他人の身体を乗っ取ることを換生っていうの。あんた、あそこで身体から出てたら、死んでたわよ」<br />
「……まさか」<br />
　真剣な表情のアヤコに頷かれて、思わず橘の方をみると、<br />
「本当だ」<br />
「<span class="line">───</span>……っ」<br />
　そこで初めて、俺はぞっとした。<br />
　あの頭上に見えた光のあたたかさが思い出されて、それとは真逆の寒気が背中を走る。<br />
「君たちが助けてくれたのか」<br />
「あんたがしぶとく身体にしがみついてたから、助かったのよ」<br />
「………声が聞こえたんだ」<br />
　そう、あの声がなければ、俺は今頃あの世にいただろう。<br />
「身体を手放すなって、必死に叫んでて。あれは誰の声だったんだろう」<br />
　俺の言葉に、ふたりは顔を見合わせた。<br />
　しばらくして、<br />
「随分早くに亡くなってるのね、お父さん」<br />
　アヤコがそう言った。<br />
「あなたより、若くみえる」<br />
「<span class="line">────</span>え？」<br />
　確かに父は、自分が物ごころつく前に亡くなった。<br />
　去年、俺はとうとう父が亡くなった時の歳を追い越したのだ。<br />
「なんで………」<br />
　俺はハッと気がついた。<br />
「いるのか、ここに」<br />
　慌てて周囲を見渡す。もちろん、何も見える訳が無いが。<br />
「見えないのは、父親がお前を守るためにそうしているからなんだ」<br />
　橘が、俺の心を読んだかの様に言った。<br />
「お前は本当は、かなり霊力が強いはずだ。けれど今まで雑霊や悪霊に煩わされることなくこれたのは、父親がすべての霊現象を遮断しているからだろう」<br />
「そんな………」<br />
　ふと頭に、祖母の顔が浮かんだ。小さい頃から霊感があったという祖母。<br />
　自分はその血を受け継いでいたのだろうか。<br />
「なのに自分から首を突っ込むような真似をして。それでも助けてくれた父親に感謝するんだな」<br />
「親父………」<br />
　写真でしか知らない親だ。他人のようなつもりでいた。<br />
　なのにずっと一緒だったなんて。守っていてくれてたなんて。<br />
（知らなかった……）<br />
　思わず俺が項垂れていると、<br />
「げげ、私そろそろ帰らないと」<br />
　腕の時計を見ながら、アヤコが言い出した。<br />
「暗くなる前に着けるかなあ」<br />
「横浜なら電車で来たほうが時間もかからないし、楽だろうに」<br />
「なんかさあ、電車とか乗っちゃうと浮気してる気分になっちゃうのよねえ。北海道だって沖縄だって、近所のコンビニだって、エッちゃんと一緒じゃないと」<br />
　そう言うと、しょげている俺なんかには目もくれず、メットを被ってバイクに跨った。<br />
「じゃあ、また連絡するわ」<br />
「ああ」<br />
　ああ、待って！せめて連絡先を……と思っているうちに、バイクは走り去ってしまう。<br />
　ぽかんとしながらその方向を眺めていると、<br />
「もう立てるだろう」<br />
　橘が言ってきた。<br />
　今気付いたけど、橘はすっかり敬語じゃなくなっている。<br />
　俺の方が年上だっていうのに。<br />
「駅まで送ろう」<br />
「……悪いね」<br />
　対抗するようにタメ口で返事をすると、ふたりしてベンツに乗り込んだ。<br />
<br />
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/48</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://huryumonji01.blog.shinobi.jp/tanpen/uncanny%20people%2006" />
    <published>2010-07-16T23:37:14+09:00</published> 
    <updated>2010-07-16T23:37:14+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>uncanny people 06</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　その森には、いくつかのアスレチックが間隔をあけて設置されていたが、遊ぶ児童の姿はなかった。<br />
　たぶん植林された人工の森ではあると思うけれど、結構立派な樹木が立ち並んでいる。<br />
　その間を、コンクリートで固められたこれまた人工の小さな川が流れていた。<br />
　足の速いふたりにやっと俺が追いつくと、ふたりはその水が流れる一角を見つめていた。<br />
「何よ、アレ。人？」<br />
「<span class="line">──</span>のなれの果て、だろうな」<br />
　明らかにふたりとも同じ何かをみている。けど、俺には何も見えなかった。<br />
　目を凝らしてみても、細めてみても、横目に見てみても。<br />
　これは、間違いなく<span class="line">───</span>。<br />
「いるんですか？幽霊」<br />
　おそるおそる俺が聞くと、<br />
「下がってろ」    <br />
「危ないわよ」<br />
　何かから視線を外さないでいるふたりから、それぞれに答えが返ってきた。<br />
（そう言われたってねえ……）<br />
　俺もこんなチャンスを逃すわけにはいかない。<br />
　心霊写真が撮れるかもしれないと、携帯をポケットから取り出してカメラを起動した俺は、<br />
「どこ？ここらへんですか」<br />
　意味もなく身体を低くしながら、忍び足でふたりの見つめるあたりへ寄って行った。<br />
「ちょっと！！」<br />
「いい加減にしろ！！」<br />
　ふたりが同時に叫んだその瞬間、<br />
「！？」<br />
　身体の中に生温かい風が吹き込んだ気がした。<br />
　とたんに吐き気が込み上げてきて、頭がガンガンと痛くなる。<br />
「うわっ……！何だ……！？」<br />
　手足に痛みとしびれを感じて、立っていられなくなった。<br />
　膝から崩れ落ちるようにして、地面に手を着く。が、着いた腕に力が入らなくて倒れ込んだ。<br />
（何だ！？何なんだ！？）<br />
　この間見たばかりの映画の、脇役が殺人ウィルスに感染するシーンが蘇る。<br />
（感染症……？死ぬのか……！？）<br />
　おかしなもので、心霊現象だという認識は全く起きなかった。<br />
　俺は心の底では、やっぱり幽霊なんて信じていなかったんだと思う。<br />
　額や背中に大量の汗が伝っているのがわかる。<br />
　口の中がカラカラに乾いていた。<br />
「たすけ……」<br />
　言葉がうまく紡げない。<br />
「換生する気よ、こいつ！」<br />
「調伏するぞ！」<br />
　ものすごく遠くの方で、ふたりの声が聞こえた。<br />
　何を言っているのか聞きとりたいとは思うのだが、苦しくて気持ち悪くてそれどころじゃない。<br />
　その時。<br />
<span class="line">───</span>苦しいか？<br />
　腹の底から、低い声が聞こえた。<br />
（え……？）<br />
　ささやき声なのに、こっちの声ははっきりと聞き取れる。<br />
<span class="line">───</span>苦しいのは肉体があるからだ<br />
<span class="line">───</span>肉体を手放してしまえば、楽になれる<br />
（……どうすればいい？）<br />
　楽になりたい一心で問いかけた俺の頭上に、突然、明るい光が見えた。<br />
<span class="line">───</span>あそこへ行け<br />
<span class="line">───</span>そうしたら身体から離れられる<br />
　もう藁にも縋る思いで、そこを目指そうと顔を上げる。<br />
　すると今度は<span class="line">───</span>。　<br />
<span class="line">━━━</span>ダメだ！！行くんじゃない！！<br />
　今度は、背中の方から声が聞こえた。<br />
<span class="line">━━━</span>絶対に身体を手放すな！！<br />
　何故だかひどく懐かしい声が、必死に叫んでる。<br />
　でも気持ち悪いんだ。苦しいんだ。<br />
　なんとか楽になりたいんだ。<br />
<span class="line">───</span>早く楽になってしまえ<br />
<span class="line">━━━</span>言うことを聞いちゃだめだ！！<br />
　肉体的な苦痛と精神的な葛藤の二重苦の中、また新たな問題が訪れた。<br />
　頭上のものとは比べ物にならないくらい眩しい光が、眼の前から迫って来たのだ。<br />
　その光が身体に触れると、全身がものすごく熱くなった。<br />
<span class="line">───</span>ギャアアアアアア！！！<br />
　腹の声が、悲鳴を上げた。<br />
　光が身体の中で溢れかえり、切り裂かれるような痛みが全身に走る。<br />
　稲妻が身体の中で暴れまわっているようだった。<br />
　やがて腹から聞こえる悲鳴が完全に途切れた時、もその光の熱さに耐えきれなくなって意識を手放した。<br />
<br />
<br />
<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/47/"><span class="ver">05</span></a>　≪≪　　≫≫　<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/49/"><span class="ver">07</span></a>]]> 
    </content>
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            <name>折り鶴</name>
        </author>
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    <id>huryumonji01.blog.shinobi.jp://entry/47</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://huryumonji01.blog.shinobi.jp/tanpen/uncanny%20people%2005" />
    <published>2010-07-16T23:36:29+09:00</published> 
    <updated>2010-07-16T23:36:29+09:00</updated> 
    <category term="短編小説" label="短編小説" />
    <title>uncanny people 05</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　橘が車を停めたのは、公園やらアスレチックやらグラウンドやら、ファミリー向けの公営施設が立ち並ぶ敷地内の一角にある駐車場だった。<br />
　平日のため停まっている車はまばらだが、幹線道路も近いことだし週末になれば家族連れで混み合うのかもしれない。<br />
　何とか許容範囲内に収まった料金を支払ってタクシーを降りると、同じく車から降りた橘がちょうど誰かに声をかけているところだった。<br />
　先に到着していたらしいその女性は、中型バイクの傍に立ってウェーブの髪をかきあげている。若いだけでなく、ものすごい美人だ。<br />
「待たせたな」<br />
「ううん。悪いわね、仕事中なのに」<br />
　橘は、俺が尾けてきたことに気付いてない訳がないと思うのだが、放っておくつもりなのかこちらを見ようともしない。<br />
「めずらしいな。お前が食事をねだらないなんて」<br />
「ほら、最近のＳＡってそれぞれ名物があったりするじゃない？これが結構いけるもんだからさあ。制覇しちゃった」<br />
「…………太るぞ」<br />
　それを聞いて、女性は眉を吊り上げた。<br />
「ちょっと！自分の好みが不健康そうな女だからって、世の男がみんなそうだと思ったら大間違いよ！健康的な方が好きって人は、い～～っぱいいるんだからね！」<br />
　彼女はそう叫んだが、俺の見る限り言うほど太ってはいないし、むしろスマートなほうだ。<br />
　ぴったりとしたライダー用のパンツが身体のラインをあらわにしていてとってもセクシーだと思う。<br />
「わかったから怒鳴るな。<span class="line">───</span>で、例のものは」<br />
「ああ、そうだったわね」<br />
　女性は懐から小さな布に包んだ何かを出すと、橘へと手渡した。<br />
「後は頼んだわよ」<br />
「ああ、抜魂はこちらでしておく。ご苦労だったな」<br />
（バッコン……？）<br />
　霊能界の業界用語なのだろうか。とすると、もしかしたら彼女も橘の同業者なのかもしれない。<br />
　聞きなれない言葉だから忘れないようにと手帳に書きつけていると、不意に女性がこちらをじっと見てきた。<br />
「ねえ、あの人さっきからこっちばっか見てない？……ナンパかしら」<br />
「そんな訳がないだろう。いいから、気にするな」<br />
　あきれた顔をしている橘に、でもぉ、と女性が口を尖らせる。<br />
　チャンス！と俺は心の中で叫んだ。<br />
　話しかけるなら、話題に上った今しかない。<br />
　俺は、バタバタと走り寄って二人の会話に割って入った。<br />
「お取り込み中のところ失礼します！」<br />
「<span class="line">───</span>……」<br />
　橘は返事すらしてくれなかったが、俺は構わずに続ける。<br />
「橘さん、やっぱりもう一度考え直してもらえませんか！？」<br />
「………くどいな」<br />
　そう言ってため息をつく橘とは、これ以上会話になりそうにない。<br />
（やっぱり無理か……）<br />
　そんな俺の落胆を帳消しにしてくれたのは、女性のほうだった。<br />
「なんだ、知り合いだったのね」<br />
「いや<span class="line">───</span>」<br />
「ええ、そうなんです。実は私、こういう者なんですけども……」<br />
　すかさず俺は、名刺を手渡す。<br />
「制作会社？」<br />
「はい、テレビ番組なんかを作る会社で<span class="line">───</span>」<br />
「えええ！？直江、テレビでんの！？」<br />
「出るわけないだろう」<br />
　相変わらずにべもない橘だったが、俺は彼女が聞きなれない名前で橘を呼んだことが気になった。<br />
「ナオエというのは、霊能者としての源氏名ですか？」<br />
「源氏名？うーん、ちょっと違うんだけど」<br />
「晴家。相手にするな」<br />
　俺の耳がピクピクと動く。<br />
　女性のほうは"ハルイエ"さんというらしい。<br />
「だって……」<br />
「じゃあ、番組のタイトルは『イケメン霊能力者・ナオエが行く！』に変更しましょう」<br />
　俺がきっぱりと言うと、一瞬目を丸くしたハルイエさんは、大爆笑を始めた。<br />
「ひ～～～っ、おっかし～～～！あなた、センスある～～～っ！」<br />
「……ありがとうございます」<br />
　なんだか褒められている気はしなかったけれど、とりあえず礼を言っておいた。<br />
　とにかくタイトルというものは、印象に残ればいいのだから。<br />
　ハルイエさんは存分に笑ったあとで、<br />
「ねえ、直江がやんないなら私がやろっか」<br />
と、言い出した。<br />
「ええ？」<br />
「美人女子大生霊能者・綾子が行く！とかさ」<br />
　彼女はハルイエ・アヤコというらしい。<br />
　自分で"美人"をつけてしまうあたり、調子がいいなとは思ったが、それはそれで面白そうな企画だ。逃す手はない。<br />
「ああ、やっぱりお姉さんも霊能者なんですか」<br />
「そうよ～、霊査能力は直江なんかよりずっと上なんだから！」<br />
「えええ！いやあ、お美しいのに実力までおありとは、まいったなあ」<br />
「えへへ～、お美しいなんてそんなあ～」<br />
「だってそこらのアイドルなんてメじゃないですよ」<br />
「そう？そうかしらあ？」<br />
　俺のミエミエのお世辞に、アヤコの目じりはだらんと垂れ下がった。<br />
　もし橘が本当にダメなら、彼女に乗り換えようかと思い始めた矢先<span class="line">──</span>。<br />
「！？」<br />
　橘とアヤコが、ふたり同時にアスレチックのある森林地帯の方を振り返った。<br />
「何！？」<br />
「わからん」<br />
　真剣な表情で言葉を交わすと、ふたりしてそちらのほうへ駆け出して行ってしまう。<br />
「え、ちょっと！」<br />
　俺は全く訳がわからなかったが、とりあえず後を追うしかなかった。<br />
<br />
<br />
<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/46/"><span class="ver">04</span></a>　≪≪　　≫≫　<a href="http://huryumonji01.blog.shinobi.jp/Entry/48/"><span class="ver">06</span></a>]]> 
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