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短編Index


 静けさを取り戻した川縁のその場所に騒がしい少年達の声が聞こえてきたのは、直江が去ってからしばらく経ってからだ。
「こっちこっち!」
「めんどくせーなー。どーせオレにはみえねーのに」
「じゃあ、図書館行って勉強する?」
「……そのほうがめんどくせー」
 人の好さそうな少年が、ちょっとグレた少年の腕を引っ張りながらやって来た。
 話の様子からすると、どうやら市内の中学生らしい。
「その人ね、旦那さんに浮気されて、しかもその浮気相手の人に───
 とても中学生のする話とは思えない内容のことを喋りながら歩いてきた人の好さそうな少年が、ふと立ち止まった。
「あれ……?いない……」
 困惑した顔で、周囲を見渡している。
「天国いったんだよ、天国。……地獄かもしんねーけど」
「あんなに想いの強い人が自然に消えちゃうなんて、初めてだよ………」
「人じゃねーだろ」
 軽い調子でグレた少年が言うと、
「死んだって、人は人だよ!」
 人の好さそうな少年は、ひどく怒って友人を睨み付けた。
「何だよ……」
 グレた少年がちょっと怯んで目を逸らすと───
「おっ?」
 逸らした先に、少年の大好物がこれみよがしに置かれている。
「らっき♪」
 それは、先ほど直江の置いていった、青いパッケージの煙草だった。
「えええ!!やめなよっ、落ちてるのなんて!」
「だって封あいてねーもん」
 少年は早速封を開けて、ポケットに入っていた100円ライターで灯をつけた。
 思い切り息を吸い込んで、「げー、きちぃー」と煙を吐き出している。
「そんなの、身体に悪いだけなのに」
「誰かが、オレに早死にしろって置いてったんだろ。きっと」
「そんなわけ無いじゃん!………もしかしたら、神様からの誕生日プレゼントかもね」
「まさか。神様がそんな親切なことする訳ねーじゃん」
(………そうだよね)
 人の好さそうな少年は、煙を吐き出す友人の横顔を見ながらふと思った。
 この友人が、不健康な苦い煙ともに飲み込んでいるのは、きっともっと苦くて痛い何かなんだろう。彼が、生まれついた境遇について神様に恨みを言ったことも、一度や二度ではきかないはず。その結果、神様はこの友人の信頼を失ってしまったのだ。
「………じゃ、用も済んだし、戻って勉強しよっか」
「今日はもーいーだろ。ここまで歩いてきて疲れちまったし」
「一緒の高校行くんだろ!ほらっ!」
 ふたりは来るときと同じように、腕を引っ張り引っ張られしながら、やがてやって来た方向へと消えていった。



 翌日。
「譲、今日も図書館?」
「うん」
 例の人の好さそうな少年が、ニュース番組を見ながら遅めの朝食をとっていると、
『23日午後8時頃、長野県松本市内の児童公園で、身元不明の女性の遺体が発見されました。松本県警によると、遺体は市民からの通報により───
 あ、と少年は声を上げた。
 あの彼女がいた場所から、少しだけ西に行った所にある公園だ。
(きっと、あのひとの遺体だ……)
 遺体が発見されたから成仏できたのかもしれない、と思いついた。
 時間的にズレがあるような気はするが、細かいことはあまり気にしない。
(いいニュース、だよな?)
 彼女は本願成就した訳だ。
 きっと、受験生である自分達にとっても幸先のいいニュースに違いない。
 昨日、一足早く十五歳になった友人にも早く教えてあげたいと、少年はコーヒーを一気に飲み干した。



後編 ≪≪
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