その森には、いくつかのアスレチックが間隔をあけて設置されていたが、遊ぶ児童の姿はなかった。
たぶん植林された人工の森ではあると思うけれど、結構立派な樹木が立ち並んでいる。
その間を、コンクリートで固められたこれまた人工の小さな川が流れていた。
足の速いふたりにやっと俺が追いつくと、ふたりはその水が流れる一角を見つめていた。
「何よ、アレ。人?」
「──のなれの果て、だろうな」
明らかにふたりとも同じ何かをみている。けど、俺には何も見えなかった。
目を凝らしてみても、細めてみても、横目に見てみても。
これは、間違いなく───。
「いるんですか?幽霊」
おそるおそる俺が聞くと、
「下がってろ」
「危ないわよ」
何かから視線を外さないでいるふたりから、それぞれに答えが返ってきた。
(そう言われたってねえ……)
俺もこんなチャンスを逃すわけにはいかない。
心霊写真が撮れるかもしれないと、携帯をポケットから取り出してカメラを起動した俺は、
「どこ?ここらへんですか」
意味もなく身体を低くしながら、忍び足でふたりの見つめるあたりへ寄って行った。
「ちょっと!!」
「いい加減にしろ!!」
ふたりが同時に叫んだその瞬間、
「!?」
身体の中に生温かい風が吹き込んだ気がした。
とたんに吐き気が込み上げてきて、頭がガンガンと痛くなる。
「うわっ……!何だ……!?」
手足に痛みとしびれを感じて、立っていられなくなった。
膝から崩れ落ちるようにして、地面に手を着く。が、着いた腕に力が入らなくて倒れ込んだ。
(何だ!?何なんだ!?)
この間見たばかりの映画の、脇役が殺人ウィルスに感染するシーンが蘇る。
(感染症……?死ぬのか……!?)
おかしなもので、心霊現象だという認識は全く起きなかった。
俺は心の底では、やっぱり幽霊なんて信じていなかったんだと思う。
額や背中に大量の汗が伝っているのがわかる。
口の中がカラカラに乾いていた。
「たすけ……」
言葉がうまく紡げない。
「換生する気よ、こいつ!」
「調伏するぞ!」
ものすごく遠くの方で、ふたりの声が聞こえた。
何を言っているのか聞きとりたいとは思うのだが、苦しくて気持ち悪くてそれどころじゃない。
その時。
───苦しいか?
腹の底から、低い声が聞こえた。
(え……?)
ささやき声なのに、こっちの声ははっきりと聞き取れる。
───苦しいのは肉体があるからだ
───肉体を手放してしまえば、楽になれる
(……どうすればいい?)
楽になりたい一心で問いかけた俺の頭上に、突然、明るい光が見えた。
───あそこへ行け
───そうしたら身体から離れられる
もう藁にも縋る思いで、そこを目指そうと顔を上げる。
すると今度は───。
━━━ダメだ!!行くんじゃない!!
今度は、背中の方から声が聞こえた。
━━━絶対に身体を手放すな!!
何故だかひどく懐かしい声が、必死に叫んでる。
でも気持ち悪いんだ。苦しいんだ。
なんとか楽になりたいんだ。
───早く楽になってしまえ
━━━言うことを聞いちゃだめだ!!
肉体的な苦痛と精神的な葛藤の二重苦の中、また新たな問題が訪れた。
頭上のものとは比べ物にならないくらい眩しい光が、眼の前から迫って来たのだ。
その光が身体に触れると、全身がものすごく熱くなった。
───ギャアアアアアア!!!
腹の声が、悲鳴を上げた。
光が身体の中で溢れかえり、切り裂かれるような痛みが全身に走る。
稲妻が身体の中で暴れまわっているようだった。
やがて腹から聞こえる悲鳴が完全に途切れた時、もその光の熱さに耐えきれなくなって意識を手放した。
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たぶん植林された人工の森ではあると思うけれど、結構立派な樹木が立ち並んでいる。
その間を、コンクリートで固められたこれまた人工の小さな川が流れていた。
足の速いふたりにやっと俺が追いつくと、ふたりはその水が流れる一角を見つめていた。
「何よ、アレ。人?」
「──のなれの果て、だろうな」
明らかにふたりとも同じ何かをみている。けど、俺には何も見えなかった。
目を凝らしてみても、細めてみても、横目に見てみても。
これは、間違いなく───。
「いるんですか?幽霊」
おそるおそる俺が聞くと、
「下がってろ」
「危ないわよ」
何かから視線を外さないでいるふたりから、それぞれに答えが返ってきた。
(そう言われたってねえ……)
俺もこんなチャンスを逃すわけにはいかない。
心霊写真が撮れるかもしれないと、携帯をポケットから取り出してカメラを起動した俺は、
「どこ?ここらへんですか」
意味もなく身体を低くしながら、忍び足でふたりの見つめるあたりへ寄って行った。
「ちょっと!!」
「いい加減にしろ!!」
ふたりが同時に叫んだその瞬間、
「!?」
身体の中に生温かい風が吹き込んだ気がした。
とたんに吐き気が込み上げてきて、頭がガンガンと痛くなる。
「うわっ……!何だ……!?」
手足に痛みとしびれを感じて、立っていられなくなった。
膝から崩れ落ちるようにして、地面に手を着く。が、着いた腕に力が入らなくて倒れ込んだ。
(何だ!?何なんだ!?)
この間見たばかりの映画の、脇役が殺人ウィルスに感染するシーンが蘇る。
(感染症……?死ぬのか……!?)
おかしなもので、心霊現象だという認識は全く起きなかった。
俺は心の底では、やっぱり幽霊なんて信じていなかったんだと思う。
額や背中に大量の汗が伝っているのがわかる。
口の中がカラカラに乾いていた。
「たすけ……」
言葉がうまく紡げない。
「換生する気よ、こいつ!」
「調伏するぞ!」
ものすごく遠くの方で、ふたりの声が聞こえた。
何を言っているのか聞きとりたいとは思うのだが、苦しくて気持ち悪くてそれどころじゃない。
その時。
───苦しいか?
腹の底から、低い声が聞こえた。
(え……?)
ささやき声なのに、こっちの声ははっきりと聞き取れる。
───苦しいのは肉体があるからだ
───肉体を手放してしまえば、楽になれる
(……どうすればいい?)
楽になりたい一心で問いかけた俺の頭上に、突然、明るい光が見えた。
───あそこへ行け
───そうしたら身体から離れられる
もう藁にも縋る思いで、そこを目指そうと顔を上げる。
すると今度は───。
━━━ダメだ!!行くんじゃない!!
今度は、背中の方から声が聞こえた。
━━━絶対に身体を手放すな!!
何故だかひどく懐かしい声が、必死に叫んでる。
でも気持ち悪いんだ。苦しいんだ。
なんとか楽になりたいんだ。
───早く楽になってしまえ
━━━言うことを聞いちゃだめだ!!
肉体的な苦痛と精神的な葛藤の二重苦の中、また新たな問題が訪れた。
頭上のものとは比べ物にならないくらい眩しい光が、眼の前から迫って来たのだ。
その光が身体に触れると、全身がものすごく熱くなった。
───ギャアアアアアア!!!
腹の声が、悲鳴を上げた。
光が身体の中で溢れかえり、切り裂かれるような痛みが全身に走る。
稲妻が身体の中で暴れまわっているようだった。
やがて腹から聞こえる悲鳴が完全に途切れた時、もその光の熱さに耐えきれなくなって意識を手放した。
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