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短編Index


 笑顔はいい、と思う。
 特に子供の笑顔は無邪気で、心が救われる気持ちがする。
 色部は今別れたばかりの四百年来の仲間の笑顔を思い返す。
 思えば今生は、人の泣き顔ばかりを見てきた気がする。
 人の死に立ち会うことの多い仕事だ。
 もちろん過去にはその医師免許を最大の武器として全国各地の病院を渡り歩きながら、人探しをしていた自分には文句などは言えない。
 そうなのだ。
 色部は人を探している。
 今この瞬間も気配を探りながら歩いている。
 終わりの見えない厳しい闘いのことを思い出して、思わずため息が漏れた。
 例え尋ね人が見つかったとして、その先にあるものもまた、"怨霊"という漠然としたものとの終わり無きいくさなのだ。
 使命の為に戦うのならば、感情は必要ない。ルールさえ、理解していればいい。
 けれど、愛情や友情や義心、そういうものは、抱かずにいられるものではない。
 一時だけの曖昧な感情はもういい、と思っても必ず心に生まれてくる。
 色部はそこが、人の愛すべきところだと思ってはいるのだが。
 曖昧なものを胸に、漠然としたものと戦う日々。
 それが延々続くとなると、一時のものでない永遠の感情を己のものとしている仲間たちを、羨ましいと思わない訳でもない。
 自分のためだけに笑ってくれるひと。そのひとの事だけを想って生きる日々。
 けれど想像はすぐに霧散してしまう。
 上杉と縁を切るといって行方をくらませたあの自由な男の心情は、自分が一番理解できるのかもしれなかった。
 冷たい空気に身を震わせて空を見上げると、本格的に吹雪き始めてきた。
 昨晩よりも積もるのかもしれない。
 視線を再び前方へと戻した。
 己の中に確固たる理由を持たない人間には、その人間なりのやり方がある。
 誰よりも眩く純粋な理由をもつ軍神と、その元に集いし仲間の為に。
 例え猛吹雪の最中でも闘い続けよう。
 色部は確固たる足取りで、吹き荒む風のなかへ消えていった。

III ≪≪     ≫≫ V
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