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短編Index


「霊能番組ですかぁ?いまどき流行んないでしょう」
 チーフに呼び出された俺は、思わず不満のため息を漏らしていた。
 俺が番組制作会社──とは名ばかりの、大手プロダクションの専属リサーチ会社のようなこの会社に勤め始めて、そろそろ5年が経つ。フリーター崩れだった俺を拾ってくれたチーフには本当に感謝しているが、客先の言い成りなところだけはほんと、勘弁して欲しいと思う。これじゃあウチは、いつまで経っても超々弱小企業を抜け出すことができないだろう。自分の将来を想って、もう一度──今度は悲観のため息を漏らした。
「やらせ無しじゃあ無理ですよ」
「しょうがないだろう、村山さんがどうしてもって言うんだから。ま、心霊系なら夏に向けてそれなりに需要はあると思うぜ」
「そうっすかねえ……」
「よさそうな霊能者、探しといて。やるからには二番煎じは避けような。ただ怖がらすだけでも、お涙ちょうだいでもない、何か新しいのがいいな」
「また……難しいことを……」
「もし企画が通ったら、全部お前に任せてやってもいい」
「そう言って、今まで任せてくれたことなんて無いじゃないですか」
「……ま、いいから頼むよ」
 結局最後はいつもの調子で押し切られて、俺はいったん会社を後にした。
 まず手始めに数少ない業界の友人達に電話を掛けてみるが、誰もそういった番組は扱ったことが無いという。行きつけのインターネットカフェに行ってある程度情報を集め、何か所かに問い合わせの電話をかけてみるが、実になりそうなものはなかった。
 こういう時はもう、プライベートの友人や家族、親戚筋に頼るしかない。
 そう言えば一年くらい前、祖母の家の物置きに悪い霊が出るとか出ないとかっていう騒動があった気がした。
 当時の俺は全く興味がなかったから、最終的にどうなったのか知らないけれど、
(……霊に善いとか悪いとかがあるのかね?)
 とりあえず、仙台の祖母に電話をかけてみることにした。
『ああ、あったねえ、そんなこと』
 相変わらず元気そうな様子の祖母は、すぐにその時のことを思い出してくれた。
『酷くこの世に恨みを持っててねえ。あの時は毎晩うなされてほんとに大変だったの』
 聞けば、祖母は小さいころからそういった感覚が鋭くて苦労したのだそうだ。そんなこと、俺は初耳だった。
「結局どうしたの、その幽霊」
『慈光寺の住職さんの手にも負えなくてねえ、若いお坊さんに来てもらったんだよ』
「追っ払えたの?」
『あの世に送ったと言っていたねえ。そんなこと、出来るんだねえ』
「へえ。その人の連絡先、わかる?」
『ちょっと待ってねえ』
 祖母が教えてくれたのは仙台よりずっと近い、栃木県の宇都宮にあるというお寺の電話番号だった。
 お坊さんの名前は『橘義明』。それっぽく呼ぶなら『ギメイ』さんだろうか。
 全国各地で"お祓い"をしている人だそうで、また何かあったらいつでも連絡をくれと言ってくれて、とても気さくな感じだったという。 
 きっと老人相手にボロ儲けの出来る、いい商売なのだろう。
「お金は?いくらくらい払ったの」
『いやあ、交通費すら受け取って貰えなかったよ』
「へ?マジ?」
『まじ、まじ』
 ということは、ボランティアの霊能力者ということだろうか。
 これはかなり斬新かもしれない。
 早速電話をしてみると、運のいいことに本人が電話に出てくれた。
 もちろんテレビ番組制作のためなどとは言わず、いかにも幽霊で困っているサラリーマンを装ってアポを取る。
 場所は東京だと言うと、ちょうど次の日に用事があって出てくるからと、朝一番で会ってくれることになった。
(ラッキーだな)
 ここまでとんとん拍子に話が進むことも珍しい。
 これは、霊能番組を作れという神様からの啓示かもしれない………。
 なーんて事を考えながら翌日、約束の場所で待っていたところ、冒頭の常識はずれな霊能力者・橘義明がやってきたのだ。


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