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短編Index


 それなりの距離を車3台で移動する事となった。
 同行する隊士は計9名。その中に含まれていた直江と潮をを無理やり後方の車に押し込んで、高耶は先頭車両の助手席に陣取った。
 直江が同乗していれば変に気を使うし、潮がいれば何かとうるさい。
 目論見通り、高耶はゆったりと過ごすことができた。
「隊長、そろそろ燃料が危ないですき……」
「ああ、ならこの先にスタンドがあったはずだ」
 途中、燃料補給のために休憩を取った。
 田舎道のセルフ給油所は他に客も無く、どこかのんびりとした雰囲気だ。
 ずっと座り通しだった隊士達は全員車から降りて、それぞれ思い思いの行動を取っている。
 高耶はそんな様子を車に寄りかかりながら眺めていた。
 そこへ相変わらず黒い服に身を包んだ直江がやってくる。
「疲れたでしょう」
「……逆にゆっくり眠れていい」
 大人しく別車に乗り込んだと思ったのに、隙あらばと傍に来る直江を、高耶もなんだかんだで許してしまう。
 畑の上を通ってきた風が、ふたりの間を爽やかに吹き抜けた。
 しばらくの間、並んでつかの間の日向ぼっこを楽しむ。
「最近はセルフばっかだな」
 高耶の視線の先にはガソリンを入れる隊士がいる。
 どうやら、トリガーを戻し損ねてタンクから溢れさせてしまったらしい。
 潮が隣でもったいない!と隊士を小突きまわしている。
「プロの技を伝授してあげたらどうですか」
 高耶が松本にいた頃、ガソリンスタンドでアルバイトをしていたことを直江は知っている。
「やめろ。どこで誰が聞いてるかわからない。最近ただでさえ変な噂があるのに」
「噂?」
「オレの美術の成績だとか、得意料理が肉じゃがだとかな」
 じろり、と睨み付けるがそんなことは意にも介さず片眉を上げて応える。
「誰でしょうねえ、そんな流言を」
 あのな、と説教を始めようとしたところで、潮が割り込んできた。
「なになに、何の話よ」
 おいしい情報の匂いを嗅ぎ取ってか、嬉々として問いかける潮に直江は間髪入れずに応えた。
「隊長は猫を”にゃんこ”と呼ぶそうだ」
「!ってめぇ……っ」
「まじ!?仰木が!?にゃ、にゃんこ!?お前、かわいいなあっ!」
 直江は無表情を装ってはいるが、満足気なのが高耶にはわかる。
 思わずため息をついた。
 この男のこういう行動は、もちろん高耶と自分の関係を他人に誇示したいという気持ちがあるのだろうが、それ以外にも噂を聞いた高耶と他の隊士とのコミュニケーションが円滑になれば、という意図があるのだと思う。
 高耶は普通にしているつもりでも、一般隊士からみるとなんだか近寄り難いらしいのだ。
 慕われこそすれ打ち解けるといったことはない。
 どうも自分には協調性というものが欠けているらしい。
 高耶はそれでいいと思っている。
 毒のこともあるし必要以上に話をしたくないのである。
 けれど、心の奥底にある孤独を直江は嗅ぎ付けてしまうのかもしれない。
 それは決して周りの人間と笑い合っていれば解決されるような類のものではないのだけれど。
 自らの孤立は気にも留めないくせに、しかもいざ高耶が周りと馴れ合えば妬くくせに、何故かそういう妙なところに気を利かせる男なのだ。
 だからといって、何年も昔のことを持ち出されるのはたまらない。変に関係を勘繰られる可能性だってある。
 せめて直江の赤鯨衆入隊以降にあった話でないと、突っ込まれた時に誤魔化しようがないから、
「するんならもう少し最近の話にしろ」
 と、潮が大声で高耶の猫好きを吹聴しているのを横目に見ながら小声で窘めてみた。
 すると直江は高耶の耳元に顔を寄せてきた。
「例えばあなたは××××が好き、とか?」
「~~~~っっ!!」
 いつかの夜に直江の巧みな誘導で高耶がせがんだ行為を、白昼の下で囁かれて高耶は思わず赤面した。
 前言撤回だ。
 この男は何も考えていない。単に高耶を困らせて喜んでいるだけだ。
 それとも同じ車に乗せてもらえないことへの復讐か。まったく子供染みている。
「いいかげんにしろ!」
 本気で怒ると直江は笑みを浮かべながらさっさと自分の車に戻ってしまった。
 取り残された高耶は赤い顔で空を仰ぐ。
 今日の日差しは一段と強い。すっかり春の陽気だ。
 土とガソリンの匂いを含んだ大気が涼しくて心地がいい。
 なかなか引かない頬の熱を晒しながら高耶は引き続き、つかの間の日向ぼっこを楽しんだ。
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