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短編Index


 生きることと、命を繋ぎ止めることは違う。
 医療機器に囲まれ、チューブだらけで、意識なく寝ている人間を"生きている"と呼ぶのは、その人に生きていて欲しい周りの人間であって、本人の意思がどうであるかは、誰にも決められないはずだ。
 オレは、自分で歩く道を選択出来る。自分で選んだものでなければ、死んだも同然だと思う。そしてその道を往く為には、大転換が不可欠だ。
 つまり、オレはオレのために裏四国を為す。オレの願望のためにあの星を使う。
「渡さない。あなたが生きることが先だ!それよりも大事なことなんてありはしない!」
 そうだろう。わかってる。
 抗いながら思う。
 オレを失うことに恐怖するお前を、オレは責めもしないし否定もしない。もし逆の立場だったらと考えてもみた。お前の最期が迫っていて、オレはそれでも大転換を選択したのかと。
 正直、したとは言い切れない。
 オレは、お前がどんなに死を望んでも、あらゆる手段を使って、例えチューブだらけにしてもお前を生かすだろう。
 だからよくわかってる……。誰よりもよくわかってるんだ……直江。


 愛撫が悲鳴のようだった。
 出来るものならこのまま身を預けてしまいたい、と高耶は思った。そうすれば、少なくとも直江だけは、辛い思いをしないで済むのかもしれない。
 力を振り絞って抵抗してはいるが………もう、持ちそうにない………。
 あと数秒で堕ちる───
 3、2、1……
「おいっ!!」
 ギリギリのところで助け舟が入った。
 突如現れた薄い水の塊が男の頬を裂き、高耶を濡らす。押さえる手がわずかに緩んだところをついて、男を押し返した。
 組み敷かれ、劣勢になってそれでも見上げてくる鳶色の瞳は、諦めることを何よりも嫌う挑戦者の眼だ。戦うことを決して恐れず、常に上方を見つめている。絡みつくような熱い視線は、必死で押さえ込んだ衝動を呼び戻す。
 高耶は唇をよせた。
 安心しろ、などとはとても言えない。全て俺に任せて着いて来いなんて、安易な嘘はつけない。
 直江の不安や恐怖は底知れないものなのだろう。オレには到底埋めてやることもできないくらい。
 けれど、それほどの不安や恐怖を感じるからこそ、直江なのだ。そしてどんなに辛くても、もう開放はしてやれない。二度と離れないと誓ったのだから。
 心が、口移しで伝わればいいと、切に思う。


 願いを貫くと決めたんだ。
 オレの中の譲ることの出来ない真実。
 どうしても欲しいもの。知りたいこと。
 それがどんなに傲慢で、醜いものだとしても、もうごまかしたりしたくない。
 世間にも、お前にまで否定するようなものであったとしても、オレはもう逃げ出したりはしない。
 あきらめたくない。
 手に入れてみせる。
 阻むものは全て倒して進む覚悟だ。
 皮肉にもその強さを教えてくれたのは、お前なんだ……。


───オレの邪魔をするな」
 この世の終わりまで歩き続けなければならない。
 自分の大地を護り立ち続けるために、大転換を為す。立つ場を与えてくれた全ての存在のために、高耶は自分の答えを提示する。
 秒読みは既に始まっている。
 歴史上類を見ない大犯罪の準備が着々と進んでいる。この土地には決して消えることない疵痕が残るだろう。
 高耶は力を振り絞って立ち上がった。


 お前は認めはしないだろう。
 否定し、拒絶し、罵るだろう。
 だけどもう決して離しはしない。
 お前が泣いて叫ぶとしても、その嘆きすら俺のものであるなら、お前が決して離れないというのなら、オレにはもう怖いものはなにもない。
 お前の瞳が不安や恐怖や焦りや憎しみに染まっても、オレはその眼を見つめ返す。
 オレはお前の視線をいつまでも浴び続ける。
 オレの大地の上で、永劫。
 かなえてみせる。必ず。


 掴んで引き止められた腕を払う暇もなく、みぞおちに衝撃を感じた。
 意思とは関係ない生理的な機能が視界を暗くしていく。
 高耶は、意識を手放した。
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