生きることと、命を繋ぎ止めることは違う。
医療機器に囲まれ、チューブだらけで、意識なく寝ている人間を"生きている"と呼ぶのは、その人に生きていて欲しい周りの人間であって、本人の意思がどうであるかは、誰にも決められないはずだ。
オレは、自分で歩く道を選択出来る。自分で選んだものでなければ、死んだも同然だと思う。そしてその道を往く為には、大転換が不可欠だ。
つまり、オレはオレのために裏四国を為す。オレの願望のためにあの星を使う。
「渡さない。あなたが生きることが先だ!それよりも大事なことなんてありはしない!」
そうだろう。わかってる。
抗いながら思う。
オレを失うことに恐怖するお前を、オレは責めもしないし否定もしない。もし逆の立場だったらと考えてもみた。お前の最期が迫っていて、オレはそれでも大転換を選択したのかと。
正直、したとは言い切れない。
オレは、お前がどんなに死を望んでも、あらゆる手段を使って、例えチューブだらけにしてもお前を生かすだろう。
だからよくわかってる……。誰よりもよくわかってるんだ……直江。
医療機器に囲まれ、チューブだらけで、意識なく寝ている人間を"生きている"と呼ぶのは、その人に生きていて欲しい周りの人間であって、本人の意思がどうであるかは、誰にも決められないはずだ。
オレは、自分で歩く道を選択出来る。自分で選んだものでなければ、死んだも同然だと思う。そしてその道を往く為には、大転換が不可欠だ。
つまり、オレはオレのために裏四国を為す。オレの願望のためにあの星を使う。
「渡さない。あなたが生きることが先だ!それよりも大事なことなんてありはしない!」
そうだろう。わかってる。
抗いながら思う。
オレを失うことに恐怖するお前を、オレは責めもしないし否定もしない。もし逆の立場だったらと考えてもみた。お前の最期が迫っていて、オレはそれでも大転換を選択したのかと。
正直、したとは言い切れない。
オレは、お前がどんなに死を望んでも、あらゆる手段を使って、例えチューブだらけにしてもお前を生かすだろう。
だからよくわかってる……。誰よりもよくわかってるんだ……直江。
愛撫が悲鳴のようだった。
出来るものならこのまま身を預けてしまいたい、と高耶は思った。そうすれば、少なくとも直江だけは、辛い思いをしないで済むのかもしれない。
力を振り絞って抵抗してはいるが………もう、持ちそうにない………。
あと数秒で堕ちる───。
3、2、1……
「おいっ!!」
ギリギリのところで助け舟が入った。
突如現れた薄い水の塊が男の頬を裂き、高耶を濡らす。押さえる手がわずかに緩んだところをついて、男を押し返した。
組み敷かれ、劣勢になってそれでも見上げてくる鳶色の瞳は、諦めることを何よりも嫌う挑戦者の眼だ。戦うことを決して恐れず、常に上方を見つめている。絡みつくような熱い視線は、必死で押さえ込んだ衝動を呼び戻す。
高耶は唇をよせた。
安心しろ、などとはとても言えない。全て俺に任せて着いて来いなんて、安易な嘘はつけない。
直江の不安や恐怖は底知れないものなのだろう。オレには到底埋めてやることもできないくらい。
けれど、それほどの不安や恐怖を感じるからこそ、直江なのだ。そしてどんなに辛くても、もう開放はしてやれない。二度と離れないと誓ったのだから。
心が、口移しで伝わればいいと、切に思う。
願いを貫くと決めたんだ。
オレの中の譲ることの出来ない真実。
どうしても欲しいもの。知りたいこと。
それがどんなに傲慢で、醜いものだとしても、もうごまかしたりしたくない。
世間にも、お前にまで否定するようなものであったとしても、オレはもう逃げ出したりはしない。
あきらめたくない。
手に入れてみせる。
阻むものは全て倒して進む覚悟だ。
皮肉にもその強さを教えてくれたのは、お前なんだ……。
「───オレの邪魔をするな」
この世の終わりまで歩き続けなければならない。
自分の大地を護り立ち続けるために、大転換を為す。立つ場を与えてくれた全ての存在のために、高耶は自分の答えを提示する。
秒読みは既に始まっている。
歴史上類を見ない大犯罪の準備が着々と進んでいる。この土地には決して消えることない疵痕が残るだろう。
高耶は力を振り絞って立ち上がった。
お前は認めはしないだろう。
否定し、拒絶し、罵るだろう。
だけどもう決して離しはしない。
お前が泣いて叫ぶとしても、その嘆きすら俺のものであるなら、お前が決して離れないというのなら、オレにはもう怖いものはなにもない。
お前の瞳が不安や恐怖や焦りや憎しみに染まっても、オレはその眼を見つめ返す。
オレはお前の視線をいつまでも浴び続ける。
オレの大地の上で、永劫。
かなえてみせる。必ず。
掴んで引き止められた腕を払う暇もなく、みぞおちに衝撃を感じた。
意思とは関係ない生理的な機能が視界を暗くしていく。
高耶は、意識を手放した。
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